LEE'S ブログ
LEE'S ブログ
根管治療に関する記事を中心に、専門的ながら大切なことを治療例をまじえて、一般の方にもわかりやすく解説しています。ありきたりな内容ではなく、欧米の論文を精読した内容をベースに信頼性のある有用な情報を発信するよう努めています。(*記事の元になっている引用文献を記載しています)疑問に思ったことは徹底的にリサーチします。学会参加報告記や、お知らせ、プライベートのくだらないお話もごくたまに、綴っております。
深い虫歯の治療〜神経を保存する生活歯髄療法〜
昨日から私が勤務医の時にお世話になった元上司の先生のカンボジアの歯科医院と診療を視察にきています。日本やアメリカ、カナダなど、先進国の歯科医療はよく理解していますが、開発途上国の歯科医療は初めてです。滞在中は現地で歯科医としてのボランティア活動も行う予定です。また帰国後にブログでご報告したいと思います。
さて、前置きが長くなりましたが神経に近い、深い大きな虫歯の治療法、生活歯髄療法について今日は書いていこうと思います。以前にも生活歯髄療法についてはブログで記事を書いていますが、9月に札幌のAE(Academy of Endodontics)での認定医更新試験のための発表で生活歯髄療法をテーマに選び、新たに80近くの関連論文を読み、新しい知識をアップデートすることができましたので、このブログで数回に分けてこのテーマを取り上げていこうと思います。
*記事の最後に参考文献を載せておきますので、ご興味のある方はどうぞ。
生活歯髄療法にも種類がありますが、今日ご紹介する生活歯髄療法は神経を露出させない方法で、日本の歯科の教科書だと間接覆髄法などと言われます。
間接覆髄法とは
治療の流れは基本的には深い虫歯を削りとった表面にお薬を置いてその上から詰める、というものです。神経に近い深い部分に置く薬剤は水酸化カルシウム製剤を使用することが古くから一般的でゴールドスタンダードといえるでしょう。その上の詰め物はレジンやアマルガム、グラスアイオノマーセメント、酸化亜鉛ユージノールセメントなど様々なものが使われます。
これだけ聞くと非常にシンプルな虫歯治療で簡単に聞こえますが、これがなかなか奥が深いのです。それはなぜかというと、事前に診断が難しい神経の生命力が治療の成功に大きく関わるからです。
ドックベストセメント、3mixの治療って?
患者様から、ドックベストセメント、とか3mix とかそういった治療法について聞かれることが多くあります。
ドックベストセメントも3mixも、治療の流れは基本的には深い虫歯を削った表面にお薬を置いてその上から詰める、というものなので間接覆髄法と言えます。
深い虫歯、神経に近い虫歯の治療法でそういうものを使うと神経が助かると誤解している患者様がほとんどで、そして歯科医の先生も誤解している方が多いようにお思います。
深い神経の虫歯の治療が成功するかどうかは、もともとの神経の健康度合いと、虫歯を削った穴をいかにきっちりと封鎖できるかどうかに関わっています。ドックベストセメント、3mix,などを使ったから助かるわけではありません。
神経が生き延びれるかどうかは、その神経がどれだけ健康かによります
神経が健康であればあるほど、適切な治療をすれば、ドックベストセメントや3mixなど行わなくても助かります。最近では、従来から使われている水酸化カルシウム製剤すらも必要ないかもしれない、というリサーチも出てきています。(参考文献10)
ここで重要なのは神経の健康度合い(生命力とでもわかりやすく言いましょう)と、適切な封鎖です。
神経の生命力/炎症の度合い
虫歯が深ければ深いほど、虫歯菌の影響で神経に炎症が起こります。神経が不健康になり、生命力が弱まっていくイメージです。この神経の不健康度合い(歯髄炎の度合い)が、治療の成功に関わる第一のキーポイントです。
歯髄炎が進むと神経の生命力が弱まり、治療で虫歯を取り除いても、生命力が回復できない場合があります。
歯髄炎にも様々な状態、初期〜重度のステージががあります、
初期から重度に進むペースも虫歯の環境やお口の状況などで個人差があるといえるでしょう。
健康な神経、または軽い歯髄炎程度は神経を残す治療が成功しやすいです。
神経の生命力が弱ってしまった原因は虫歯(細菌の刺激です)。
細菌刺激で神経に炎症が起こります、そして神経がまだ元気なうちは炎症の原因を取り除いてあげれば(虫歯を取り除くこと)、自己治癒します。
中程度、重度の歯髄炎になってる場合は、よりアグレッシブな生活歯髄療法または神経を取る治療が必要となることが多いです。
重度の歯髄炎になると、そもそも神経の生命力が弱くなっているので、健康な状態に回復できず、ドックベストセメントも3mixももちろん効果はありません。
↓神経の炎症の度合いをイラストで表すと、こういうイメージです
(濃く赤い部分が炎症の範囲です)
使う薬、セメントよりも確実な封鎖が重要
確実な封鎖というのは虫歯の穴を外界からシャットアウトするようにきっちり詰めることです。原因を取り除いたとしても、虫歯を削った穴の封鎖がしっかりできていなと、詰め物の隙間から、刺激がいきますし、細菌の栄養となる唾液などが入り込みさらに細菌が増え、活動しやすい環境になり、神経の炎症が持続します。
あえて神経に近い部分の虫歯を取らない治療法
虫歯は全て取り切らないと、神経の炎症は治らない、治療後も中でどんどん進んでしまう。そう考えている歯科医はとても多いと思います。大学でもそう教わりますし、わたしもこれまでそう思っていました。
今回、このテーマのために論文をいろいろと読み、欧米でのカリオロジーという予防歯科の分野や小児歯科の分野では昔の考えと大きく変わってきていて、神経に近い虫歯で、神経の生命力が健康な場合は一番深いところの虫歯を取り切ら無い、ということが主流になってきていることに驚きました。
虫歯を取り切らないことのメリット
神経に近い部分の虫歯、そこをとると神経に穴が開いてしまうような、そこを刺激することでより神経にダメージを与えてしまうような、深い部分、ここはあえて虫歯を取らず(刺激せず、神経に穴が空くのを防ぐためです)残した状態で、穴をしっかり封鎖すると、中の細菌数が減り細菌の活動が止まり、虫歯の進行が止まると数多くの研究で証明されています。(参考文献4,5,6,8)
神経が健康だと、残った活動停止した虫歯菌の緩やかな刺激で第3象牙質という、新しい歯が神経の内側からできます。
これが元気な神経の防御反応なのです。
以前は水酸化カルシウムの効能でこの第三象牙質ができると考えられていましたが、現在は神経または象牙質の細胞(象牙芽細胞)が、進行停止した虫歯のゆるやかな細菌に刺激されて、こういった防御能を発揮すると考えられています。
***ただしこれは弱った生命力の弱い神経では起こりません。神経が健康だからこそ起こる防御反応です。***
Selective carious tissue removal
2015年に12の国(北米、南米、ヨーロッパ、オーストラリア、アジア)から21人のカリオロジーの専門家が集まりInternational Caries Consensus Collaboration(ICCC)が開催され、神経に近い虫歯はあえて虫歯を取り切らないということでコンセンサスが得られています。
また、この方法はいろいろな名前で呼ばれていましたが、Selective carious tissue removal という呼び方に統一されました。
訳すと『選択的な虫歯除去』 という感じです。
逆に完全に取り切る方法はNonselective carious tissue removal 『非選択的な虫歯除去』で, 浅い虫歯、中程度の虫歯に適応されます。
*記事の最後に参考文献を載せておきますので、ご興味のある方はどうぞ。
Selective carious tissue removal はもっと歯科医の間で認識されて来れば大人の虫歯の治療でも需要が増えてくると思います。神経が温存できれば難しい根管治療も必要ないですから。
↓AE発表時に作ったSelective carious tissue removal のスライドを以下に貼り付けます。
参考文献
- Frencken J. E., Innes N. P. T, Schwendicke F. Managing Carious Lesions: Why Do We Need Consensus on Terminology and Clinical Recommendations on Carious Tissue Removal? Adv Dent Res. 2016;28(2):46-8.
- Innes NPT, Frencken JE, Bjørndal L, Maltz M, Manton DJ, Ricketts D, Van Landuyt K, Banerjee A, Campus G, Doméjean S, Fontana M, Leal S, Lo E, Machiulskiene V, Schulte A, Splieth C, Zandona A, Schwendicke F. Managing carious lesions: consensus recommendations on terminology. Adv Dent Res. 2016;28(2):49-57.
- Schwendicke F, Frencken JF, Bjørndal L, Maltz M, Manton DJ, Ricketts D, Van Landuyt K, Banerjee A, Campus G, Doméjean S, Fontana M, Leal S, Lo E, Machiulskiene V, Schulte A, Splieth C, Zandona AF, Innes NP. Managing carious lesions: consensus recommendations on carious tissue removal. Adv Dent Res. 2016;28(2):58-67.
- KingJ JB, Crawford JJ, Lindahl RL. Indirect pulp capping:A bacteriologic study of deep carious dentine in human teeth. Oral Surg Oral Med Oral Pathol. 1965;20(5):663-9
- Handelman, S. L., Washburn, F., & Wopperer, P. Two-year report of sealant effect on bacteria in dental caries. J Am Dent Assoc., 1976;93(5):967–970.
- Bjørndal L, Larsen T, Thylstrup A. A clinical and microbiological study of deep carious lesions during stepwise excavation using long treatment intervals. Caries Res. 1997;31(6):411-417.
- Ricketts DN, Kidd EA, Innes N, Clarkson J. Complete or ultraconservative removal of decayed tissue in unfilled teeth. Cochrane Database Syst Rev. 2006;19(3):CD003808.
- Mertz-Fairhurst EJ, Curtis JW Jr, Ergle JW, Rueggeberg FA, Adair SM. Ultraconservative and cariostatic sealed restorations: results at year 10. J Am Dent Assoc. 1998;129(1):55-66.
- Schwendicke F, Dörfer CE, Paris S.Incomplete caries removal: a systematic review and meta-analysis. J Dent Res. 2013;92(4):306–314.
- MA Pereira et al. No additional benefit of using a calcium hydroxide liner during stepwise caries removal. J Am Dent Assoc. 2017;148(6):369–376.
●歯の神経を残す治療〜生活歯髄療法③治療法について〜
こんにちは。李です。
今週は桜が満開でキレイでしたね〜
皆様はお花見にいかれましたか?私は近所の桜を散歩やジョギング中に満喫しました。
引っ越しをしてはじめての春でしたので、桜スポットを発見するのも楽しかったです。
なかでも一番綺麗だったのは茅場町のさくら通りです。桜の天井状態が続いていて桜スポットとしておススメです。とくに夜が綺麗です桜通りの写真です。
お近くの方はぜひこの通りをあるいてみてくださいね
さて、今日は生活歯髄療法Vital Pulp Therapyのパート3として、実際の治療法について簡単にお話していこうと思います。
VPTは大きくわけて2種類の治療法があります。
①間接覆髄法(Indirect pulp capping/以下IPCとします)と②直接覆髄法(Direct pulp capping/以下DPCとします)です。
①のIPCは神経と虫歯を削った穴の底に一層健全な歯がある状態です。つまりIPCでは神経は露出していない状態で覆髄(capping/修復象牙質の形成を促すお薬をおくこと)をおこないます。
②のDPCでは、神経は露出します。露出した神経の上に覆髄(capping/修復象牙質の形成を促すお薬をおくこと)をおこないます。
またDPCでは神経の切断の有無または神経切断の位置によって、A:直接覆髄、 B:部分的断髄(partial pulpotomyまたはcvek pulpotomy)、C:断髄(Full pulpotomy)の3つにわかれます。
Part2のVPTの適応で、神経の炎症が可逆性か非可逆性かがポイントであるとお話したのを覚えていらっしゃいますか?
神経の露出面に覆髄をおこなう、直接覆髄や断髄法の使い分けかたは、この神経の炎症によります。
直接覆髄では神経の切断はおこないません。つまり、炎症が完全にない神経におこなうことが前提となっています。
たとえば、転んで歯が折れて神経が露出した場合ななどは、神経に炎症はないと考えます。
虫歯などの細菌が原因の場合には症状がなくても神経に炎症がある場合があります。
そうすると、必ず神経から出血が多くあります。出血が多い事は炎症の存在を意味します。
VPTの際には露出した神経を止血出来るかどうかが、かなり大きなポイントとなるのです。
適切な止血処置をほどこしても神経からの出血をとめられない場合は、その神経には炎症が存在すると考え、さらに深いところまで神経を切断していきます。
最終的には止血ができるところまで神経を切断するのですが、最後まで血がとまらない場合は神経を根こそぎ取る事になるので、結果的に抜髄処置になるということです。つまりこういった場合は不可逆性の歯髄炎だったってことになりますね。でもだいたいはそこまでの炎症となると、治療前の神経の検査や患者様の痛みの症状からVPT適応外と診断される事がほとんどです。
PART1でもお話しましたが、歯髄切断法で深いところまで炎症が及んでいて、最後の2、3mmの神経だけが保存可能だったとしても、根未完成の歯は神経を残す価値があります。その2、3mm残った神経のおかげで歯の根の成長が続くからです。ですので、この生活歯髄療法VPTは根未完成歯におこなわれることが多いのです。
では、大人の神経の保存にはどうなのか?断髄法で炎症のある歯髄を取り除いたとしても、成功率は無菌的環境下での抜髄治療より劣ります。
VPTを行った後に結局神経がダメになってしまった、なんていうこともあり得るので、だったら最初から成功率の高い抜髄処置をおこなおう、というスタンスのようですね。
さて、次回はVPTの覆髄処置で使われるお薬(修復象牙質形成促進する薬)で、古くから使われている水酸化カルシウムや新しい材料であるMTAセメントについてお話しようと思います。
このVPTでこんなにお話をひっぱれるとは!それだけ診断や治療に際して考えなければならないことが多い治療法だということです。
来週からはもう4月ですね!
4月はハワイでおこなわれるアメリカ歯内療法学会に参加してきます。
ブログで学会報告もいたしますので、お楽しみに〜
●歯の神経を残す治療〜生活歯髄療法 Vital pulp thearapy② その適応は?〜
こんにちは。李です。
日差しがだいぶ春めいてきましたね
やっぱり3月は2月とは違いますね。
今週は暖かいようで嬉しいです。だんだん春がやってくる感じは、なんだかウキウキ、ソワソワ、ムズムズするのは私だけでしょうか?理由なく気分が高揚するってもんです
さて、今日は前回の続きとしてVPTの適応についてお話していこうと思います。
前回のブログを読むと、なんでもかんでもVPTやればいいじゃないか!と思ってしまうかもしれませんが、
VPTをおこなって成功しやすい歯(正確には神経の炎症の進行度、レベル)とVPT をおこなっても絶対失敗する歯、
両者の中間のグレーゾーンがあると私は思っています。
ですので、どんな歯におこなっても成功するわけではないんです。
VPTを成功させるための重要ポイントは
①術前の神経の炎症レベル
②感染源の確実な除去
③細菌の侵入経路をシャットアウトするための確実な封鎖
です。ここでの①術前の神経の炎症レベルで、VPT適応可能かどうかを見極めます。
VPTは神経が正常であるほど成功率が高くなります。
正常とはどういう状態か?
たとえば術前に痛みなどの症状がなく、虫歯もないきれいな天然歯で、転んで歯がかけて神経が露出した場合などです。Cveckら(1978)はこの、転んで歯が折れた(外傷による露髄を伴う歯冠破折)歯に対してVPTを行い96%の成功率を報告しています。
もうひとつの適応症は、専門用語でいうと可逆性の歯髄炎です。
どういう状態かというと、
虫歯のある歯、といっても虫歯の深さによって、神経の炎症のレベルは様々です。
可逆性の歯髄炎とは、神経の炎症をおこすきっかけとなっている感染源(虫歯)をとりのぞき、侵入経路をシャットアウトしてあげるともとの正常な神経に戻る、初期の炎症です。
炎症がすすむと不可逆性歯髄炎という状態になり、感染源を取り除いても神経は回復できないのです。
そして死んでしまいます(これを歯髄壊死といいます)
不可逆性歯髄炎と歯髄壊死の場合はVPTは適応できません。
VPTをおこなっていくにあたっては、この可逆性歯髄炎、不可逆性歯髄炎の見極めが非常に重要です。
見極めるための検査としては
歯の神経の知覚検査と、痛みの既往(それまでの歯の痛みの症状の経過)があります。
知覚の検査とは、冷たい刺激、暖かい刺激を歯にあてて反応をみていくのです。
しかしながら、こういった検査は神経の炎症状態が100%検査結果に反映されるわけではないのです。
神経の炎症の状態を正確に把握するためには、病理切片にして細胞をみるか、血流をみる機械などもありますが
臨床応用される段階にはきていません。
可逆性、非可逆性の見極めがとても難しいのはこのためです。
ですので、冒頭でお話しした、成功しやすい歯と成功しにくい歯の中間のグレーゾーンとはこの見極めの難しさから可逆性歯髄炎のことを言っているのです。
大きな虫歯の治療で、歯の神経に炎症がある場合、抜髄治療とVPT、どちらを選びますか?
無菌的な環境下での適切な抜髄治療の成功率は約90%と報告されています。
歯の神経の炎症のレベルを見極めるのが難しいVPTは、成功率は論文によって様々ですが90%より劣ります。
VPTは治療後にも長期的な経過観察が必要ですが、患者さんが途中で通院できなくなってしまう場合もあります。
そういったことを考慮すると、前回のパート1でお話しした、根未完成歯では積極的にVPTがおこなわれますが、
大人の歯(根完成歯)では、より予後が確実な根管治療を選択する方が長い目でみて患者様にとっての利益が多いと考えれている傾向です。
もちろん、こういった成功率やリスクをご説明した上でそれでもトライしたい!という方もいらっしゃると思うので、最終的には患者様の意思を尊重するのがベストだと思います。
治療法の選択する時に、現在可能な治療方法やそれぞれの成功率、メリットデメリット、治療に伴うリスク、などを客観的に科学的根拠をもとに患者様にわかりやすくお話して、治療法の選択のための情報をなるべくお伝えするのが私の仕事の半分以上のウェイトを占めると思っています。
ちょっと話がそれましたが、
一番良いのは、なるべく虫歯が小さく神経の炎症が少ないうちに治療介入することです。そうすれば確実に神経は保存できます。
痛みがでてからでは、遅い事が多いのです
●歯の神経を残す治療〜生活歯髄療法 Vital pulp thearapy① 歯の神経の働き〜
皆様こんにちは。李です。
まだまだ寒い日が続いておりますね。
先日ワイン仲間の友人のご結婚お祝い会があり、青山のビストロで行う予定でいたのですが
当日シェフがインフルエンザにかかってしまいお店が営業出来ない、という連絡があり急遽お店変更になるというハプニングがありました。
もっと早く言ってほしかった。。。と思いつつも、
まだまだインフルエンザ、流行っているので注意しないといけないな、と気を引き締めました。
さて、今日から久々に歯のお話に戻ろうと思います。
私は根管治療を専門的に学び、日々行っておりますが、神経を保存することができるなら、それにこしたことはないと、常々思っています。
今回はこの神経を残す治療、生活歯髄療法 Vital pulp thearapy(以下VPTと略します)について何回かにわけてお話しようと思います。
このVPTという治療法、患者様はあまりご存じないかたも多いのではないでしょうか?
この治療法は虫歯が大きくて、全てとりさると神経が露出してしまうような場合、もしくは虫歯を取っている段階で露出してしまった場合、歯をぶつけてしまい歯が欠けて神経が露出してしまった場合などに、神経を取らずに保存する治療法、つまり神経を保護して守る治療法です。
このVPTは主に根未完成歯に適応されることが多いです。根未完成歯ってどんな歯かごぞんじですか?
生えて間もない永久歯は、まだ歯の根っこが発育途中でしっかり出来上がっていないのです。
イメージしやすいように、レントゲン写真でみてみましょう。(私の大好きなTrope先生の論文から引用させていただきます)
下の写真の○は乳歯です。その下には永久歯があります。これから生えようという時期です。永久歯の○を見ると、まだ根っこが半分も完成してません。
では歯が生えるとこの根っこはどうなるかというと、○に注目です。
上の写真に比べると根っこが成長しているのがわかると思いますが、完全に成長していません。
歯が生えても根っこが完成するにはもう少し時間がかかります。これが根未完成歯といわれる状態です。
(Martin Trope. Regenerative Potential of Dental Pulp JOE2008より)
ちょっと横道にそれましたが、なぜこのような根未完成歯にVPTが最適応となるかというと、神経がなくなってしまうと、根の成長はストップしてしまうんです。そうすると、根っこの厚みが薄いままなので、割れやすくなります
丈夫な健全な歯に成長させてあげるためにも根未完成歯に神経は必須というわけです。
大人の歯(根完成歯)には絶対おこなわないかというと、そういうわけでもありません。ただいろんな論文を読んでいると、賛成あり反対ありでコンセンサスが得られていないようです。成功率が様々であることや、予後の不確実性、長期に経過観察が必要であること、などから根管治療を行う方がより確実であるという見解も多いようです。アメリカでは訴訟の問題や患者様の経済的な問題などの社会的な背景も影響しているように思います。
歯の中に入っている神経はいろんな働きをしてくれます。
上記のように歯の根っこを発育させる働きや、外来刺激(細菌や、歯を削る、歯ぎしりなどの刺激)に対しての神経の防御反応として、第3象牙質(修復象牙質ともいう)という、歯の完成後にさらに新しい象牙質を作ったりする作用もあります。VPTはこの神経の象牙質形成能を促します。
虫歯に対して痛みを感じたり、凍みたり(あの嫌な痛みです)というのも神経のおかげです。神経がないと、虫歯がかなりすすんでも気づかず、歯が折れたりしてはじめて大きな虫歯が発覚、そして手遅れ、なんていう最悪のパターンもよくあります。
VPTという治療は神経を保存するための治療で、神経を保存することによって、その歯にはいろんな恩恵がのこるのです。とくに根未完成歯にとっての恩恵はかなり大きなものになります。
これだけを読んでいると絶対に根管治療よりVPTがやりたい!と思われるかもしれませんが、どんな歯でもVPTが適応というわけではありません。神経の炎症のレベルによってはVPTを行っても手遅れな場合も多くあるので、適応の見極めがとても大切なのです。
では、どのようにVPTの適応を見極めていくのか??
それは次回のブログでお話していこうと思います。
読んでくださった皆様、ありがとうございます次は3月ですね〜。今年も早い早い!!