LEE'S ブログ
根管治療に関する記事を中心に、専門的ながら大切なことを治療例をまじえて、一般の方にもわかりやすく解説しています。ありきたりな内容ではなく、欧米の論文を精読した内容をベースに信頼性のある有用な情報を発信するよう努めています。(*記事の元になっている引用文献を記載しています)
追記:多くのブログ記事の執筆当時からだいぶ時間が経過しております。最新の研究をもとにした現在の見解や治療のトレンドなどをアップデートできておりませんので、記事によっては当時の見解から変化している場合もあります。(2022.12.28)
根管治療、歯内療法専門医制度、日米の違いと一般歯科との違い
歯内療法(根管治療)専門医医制度の日米の違いと、一般歯科との違いについてお話ししていきたいと思います。
根管治療専門医、歯内療法専門医とは?日本での位置付けは?
『根管治療専門医』『歯内療法専門医』といっても日本の制度は米国と大きく違います。
米国では
国が定める認定機関CODA(Commission On Dental Accredition: https://www.ada.org/en/coda)から認定された専門医育成の教育機関(大学院、レジデントプログラム)に合格入学し(非常に狭き門で各大学で少なくて4名、多くて20名くらいの枠しかありません)2〜3年、治療と専門知識を深める研鑽をつまなければなりません。卒業できた歯科医のみが専門医を取得します。専門医となった歯科医は専門の治療しか行わず、一般歯科医と一線を画します。
米国の大学院を卒業し、米国の基準をクリアした歯内療法、根管治療専門医は現在日本では数名しかいないのです。
専門医教育に興味のある方こちらをご覧ください。
一方日本では専門医の制度というのはアメリカほどはっきりと確立していません。
日本では現在2タイプの専門医がいると言えるでしょう
●歯科医が大学、海外の各種プログラム、勉強会、研修会等で勉強し研鑽を積み、根管治療を専門的に行うクリニックをオープンする、またはそういったクリニックで勤務する、出張で根管治療のみを行うならば『根管治療専門医』『歯内療法専門医』といえます。(私もこの部類に入ります)
●学会やスタディーグループがその組織独自評価で専門医と認定するシステムがあります。私も会員になっている日本歯内療法学会の専門医制度や、所属しているPESCJの認定制度、専門医制度などがこれに当たります。
専門医と認定する評価方法は学会やスタディーグループ内で決められているので、米国の認定基準とはだいぶ違います。
例えば日本歯内療法学会では以下のように専門医を定めています(一部抜粋)。
日本歯内療法学会が定める専門医とは
本学会に一般会員として5年以上在籍し、指定された研修の証明、 5例の症例報告ならびに2名の専門医または指導医の推薦状とを添えて認定審議会に申請し、 これらの書類審査に合格した後、さらに対面診査および筆記審査に合格した会員である。
より詳しくは
日本歯内療法学会ホームページへ
http://www.jea.gr.jp/kaiin/index-6.shtml
PESCJが定める認定医、専門医とは
私が所属するPennEndoStudyClub in Japan http://www.pescj.org/は根管治療、歯内療法専門医を育成するためのスタディークラブです。主催者の石井宏先生は日本で初めて米国の歯内療法学科のプログラムを卒業、米国歯内療法専門医を取得された先生で、ご自身が米国で受けた専門医プログラムをもとに私たちメンバーを米国の根管治療専門医と同じレベルの考え方と知識、治療スキルがある専門医を育てる目的で、カリキュラムを組み教育指導をされています。認定医の受験資格はPESCJの1年間コースを受講し、試験に合格する事です。1年のプログラムとは150〜200本近い論文を読みそれを元にしたプレゼンテーションを8回、症例に至っては最低でも30症例でその他に抜去歯を使ったトレーニングが30以上と過酷なプログラムです。卒業月には実際に米国ペンシルバニア大学歯内療法科に行き、口頭試問、実習などをおこない認定試験を受けます。少人数制で1年に8名しか入ることができずせっかく受講できてもノルマがこなせず脱落する歯科医もいるほどです。専門医に至っては根管治療、歯内療法治療のみに特化しないと受験資格がありません。これはクリアする事が非常に厳しい基準と言えるでしょう。
PESCJメンバーはコチラ。
http://www.pescj.org/member.html
日本と米国で歯内療法専門医の大きな違いをまとめると
●米国では専門医制度は国の認定機関によって定められているが日本では学会やスタディーグループが定めている。
●米国では専門医は根管治療しか行わないが、日本歯内療法学会の定めでは一般歯科治療を行う歯科医でも専門医となれる。
専門医の定義の日米の違いについて解説しましたが、欧米の根管治療、歯内療法専門医についてもう少し詳しくお話しします。
欧米の歯内療法、根管治療専門医はどういう研鑽を積んでいるのか?
膨大な数な論文を読みこなし、歯内療法(根管治療の学問的な名前です)領域のいろいろな考え方を徹底的に学びます。病気の原因、病気がなおるメカニズム、細菌のことなど、治療をする上で最も大切な原理原則とも言える概念を学び、さらに治療の成功率、失敗の原因なども学びます。治療のテクニック的な側面や、どういった器具をどういう時に使うのか、殺菌や根管充填の薬剤に対する考え方も学びます。論文や講義以外では患者さんの治療をおこない、学生指導も行うようです。プログラムによっては論文を発表し、修士号(Masterof Science)を取得する場合もあります。大学院を卒業してはじめて根管治療専門医となるのです。
こういった勉強から専門医は使う薬剤ひとつとっても、どんな種類の薬剤をどのくらいの濃度で使うのか、どう言う時にどういう器具を使うのか等、治療の各ステップで全て明確な理由がありますし、いつも同じものを使用するのでなく症例によって、使い分けたりもします。上述のように深く学問を勉強していることから、治療の背景にある専門知識が豊富であること、治療に対して確固たる哲学、信念があることが特徴であると言えると思います。
手前味噌ですが私もイギリスのKing’s Collge Londonの歯内療法学科EndodonticMSc https://www.kcl.ac.uk/study/postgraduate/taught-courses/endodontics-msc.aspxに念願かなって合格する事ができました。(2018年)Distance learning programの3年間は専門医としてより研鑽していく予定です。
ラバーダムやマイクロスコープを使っているなら一般歯科医の根管治療でもいいのでは?
もし同じだったら専門医でわざわざ治療しなくてもいいのではないか?と思われる方も多いと思います。
根管治療専門医の治療の実際はどう違うのか?
根管治療専門医がおこなう治療と一般の歯科医がラバーダムやマイクロスコープを使った治療は違いがあるのか?
根管治療専門医の治療の実際についてさらに詳しいことをお知りになりたい場合は当院根管治療ページへどうぞ→ リーズデンタルクリニックの根管治療について
結果に違いがあるかというと、ある場合もあれば無い場合もある、と言えます。
ラバーダムを使った場合と使わない場合も同じです。ラバーダムを使用することで根管治療の時に細菌が根の中に侵入することをかなり防ぐことができるので、使わないも根管治療よりも使う根管治療の方がはるかに良いのは確実ですが、
では、ラバーダムなしで過去に根管治療を受けたか人はみんな失敗しているかというと、そうではありません。
そもそも人の体には免疫力というものもありますし、ラバーダム使用の有無、マイクロスコープの使用の有無だけが成功にかかわる要因ではありません。
一般の歯科医院でラバーダムなしでの根管治療でうまくいっているケースもあれば、一般歯科医院でラバーダムとマイクロスコープを使用してうまくいくケース、根管治療専門医のもとで治療してうまくいくケース、結果だけで言えば差がない場合もあります。
けれども、もちろんそうでない場合もあります。ですので、どちらがベターなのか、といえば、もちろん根管に中に細菌が入らないようにするためのラバーダムを使った方が良いですし、汚染や根管を見落とさないようマイクロスコープを使った方がより良いのはいうまでもありません。
では、歯内療法(根管治療)専門医の治療は何がちがうのでしょう?
それは患者様がどこまでの治療の質を求めているのか、によると思います。
歯内療法領域について深く学んでいる専門医は、病気の原因である細菌排除に対する認識が強いです。細菌が根の中に流入しないためにはあらゆることをおこないます。
ラバーダムを使用することは細菌排除のためにおこなうべきことのうちのかなり大切なものの一つです。それ以外にも細菌排除のために行ったほうが良いと言われるものは全ておこなっています。(一般の歯科医院との大きな違いは無菌的な治療環境の徹底だと思います。治療器具ひとつひとつの徹底した滅菌管理です。これは手間も時間もコストもかかるため、なかなか保険診療をおこなっている歯科医院での実践は難しいと思います)
例えば、リーズデンタルクリニックでは一般の歯科医院でラバーダム防湿、マイクロスコープを使用した根管治療を受けたけど治らないという患者さまも多くいらっしゃいますが、治らない理由が他にあることが多いです。
実際に歯をみてみると、詰め物の下に虫歯が残っていた(そもそも古い詰め物を外さずに根管治療をおこなっていた:写真①)、コアの治療がうまくいかず隙間があり唾液が流入していた(写真②③)、見落とした根管があった(写真④⑤)、ひびが見落とされいた、そもそも診断が間違っていた、などなど問題が見つかります。また使用している器具薬剤に問題がありそうと思われるケースにも遭遇します。
写真①:コアが歯に一部残ったまま根管治療がされていたケース
写真②③:一見問題なさそうなレジンコア、剥がしてみると隙間があり唾液の流入ルートとなっていた
写真④⑤:見落とされていた4番目の根管
こういったことが無い場合には一般の歯科医院での治療でもうまくいく場合が多いとおもいます。けれども、それは事前にわからないことなので運にまかせるようになってしまいます。
根管治療の歯科医院をどのように選べばいいのか?
歯のために最善の方法で治療したい場合は根管治療のみを行う専門医がいる医院を受診されることをお勧めします。
費用をなるべくかけたくない場合には、まずは比較的安価な一般の歯科医院での治療を受けてみて、うまくいかなかったら根管治療専門医の治療を受ける、というのもひとつの方法です。
けれども、一度失敗した根管治療は最初の治療よりも成功率が低くなりますし、再治療を繰り返すたびに少しづつ歯が削られて失われていくというマイナス面も考えられます。
この記事はリーズデンタルクリニック院長 歯科医師、歯学博士、米国歯内療法学会会員、日本歯内療法学会会員、PESCJ認定医の李光純(Lee Lwangsoon DDS, PhD)によるオリジナルの記事です。