LEE'S ブログ
根管治療に関する記事を中心に、専門的ながら大切なことを治療例をまじえて、一般の方にもわかりやすく解説しています。ありきたりな内容ではなく、欧米の論文を精読した内容をベースに信頼性のある有用な情報を発信するよう努めています。(*記事の元になっている引用文献を記載しています)
追記:多くのブログ記事の執筆当時からだいぶ時間が経過しております。最新の研究をもとにした現在の見解や治療のトレンドなどをアップデートできておりませんので、記事によっては当時の見解から変化している場合もあります。(2022.12.28)
はじめての根管治療で失敗する5つの原因②〜神経の取り残しは問題ない!?〜
前回から『はじめての根管治療で失敗する5つの原因』(SUNDQVIST et al. Endodontic Topics 2003 から引用)をご説明しております。
復習になりますが、
虫歯が進行していても、歯髄をとらないほどひどい痛み(歯髄炎)の段階でも、まだ細菌は根の中に蔓延していないことが多いです。
では、なぜもともと細菌が蔓延していない根管内に細菌が入ってしまい、根管治療が失敗してしまうのでしょうか?
5つの原因は以下の通りです。
原因① 無菌的治療がなされていない
原因② アクセスキャビティーが適切でない
原因③ 根管の見落としがある
原因④ 機械的拡大が不適切
原因⑤ 修復物からの漏洩
今日は原因② アクセスキャビティーが適切でない を詳しくご説明していきますね。
アクセスキャビティーとは?
患者様にはなじみのない専門用語ですが、なんのことかというと、根管にアクセスするための穴、つまり根管にきちんと器具が届くように、また根管の見落としがないように過不足なく入り口の歯の部分を削ることです。
イメージがつきにくいと思うので、イラストをPathways of The Pulp – 10th Editionから引用してご説明していきます。
歯を上から見たところと、横から見たアクセスキャビティー断面のイラストです。
歯を上からみた場合のアクセスキャビティー:はじめての根管治療の場合は、アクセスキャビティーは術者が設定できますが、再治療の場合は、もうすでに以前根管治療をおこなった先生によってアクセスキャビティーは出来上がっています。
歯を横からみた断面のアクセスキャビティー:小さすぎると、根管がみえづらく、そして器具が入りにくいのです。
このように、アクセスキャビティーは結構難しいのです。
では、実際の症例の写真を見ていきましょう。
小さいアクセスキャビティーの例です。
器具がしっかり届くためにはもう少し広げないといけません。
とくに湾曲の強い根の部分はせまいアクセスキャビティーだと器具をいれることができません。
せまいアクセスキャビティーが原因で、根管の見落としや、器具をきちんと挿入することができず、歯の神経を取り残したりします。
(根管の拡大が不十分などといいます)この、取り残した神経は細菌の栄養源(餌)になるのでとても良くないです。
栄養があると細菌はより繁殖します。細菌の繁殖は根尖性歯周炎(根の病気)を誘発します。
でも、根尖性歯周炎(根の病気)は細菌がいなければおこりません。
ですから、せまいアクセスキャビティーで神経の取り残しがあっても、無菌的治療 が守られていれば、根の病気はできないということになります
前回の『原因① 無菌的治療がなされていない』でご説明した無菌的治療と適切なアクセスキャビティー、どっちが大事かというと圧倒的に無菌的治療の方が大事です。
細菌の存在が、病気ができるできないに直接かかわってくるのですから
次に、必要以上にアクセスキャビティーを大きくするとどうなるでしょう?何か悪いことがおこるのでしょうか?
必要以上に大きなアクセスキャビティーは、歯の量が少なくなり、破折がおこりやすくなります。
以下症例写真です。
大きくなっているアクセスキャビティーの例です。根管の位置より少し外側に削り過ぎです。(赤い部分が削り過ぎ)
こちらも必要以上に大きくなっているアクセスキャビティー
どうでしょうか?過不足なくアクセスキャビティーを設定することが治療の成功や歯の長持ちに関わってくるのです。
こういったことも考えながら治療することはとても大切なのです。
ということで、『原因②アクセスキャビティーが適切でない』は以上です。
次回は『原因③ 根管の見落としがある』に続きます!