根管治療に関する記事を中心に、専門的ながら大切なことを治療例をまじえて、一般の方にもわかりやすく解説しています。ありきたりな内容ではなく、欧米の論文を精読した内容をベースに信頼性のある有用な情報を発信するよう努めています。(*記事の元になっている引用文献を記載しています)

追記:多くのブログ記事の執筆当時からだいぶ時間が経過しております。最新の研究をもとにした現在の見解や治療のトレンドなどをアップデートできておりませんので、記事によっては当時の見解から変化している場合もあります。(2022.12.28)

はじめての根管治療で失敗する5つの原因④〜機械的拡大について〜

皆様こんにちは!李です。

桜の季節があっという間に過ぎ、4月ももう半分終わってしまいました。

今日は雨ですが、ここのところ毎日お天気が良くて本当に気持ちのよい季節です。

公園で一日過ごしたいなあ〜などと、考えてしまいます

 

さて、前回の続きです。

シリーズでお話しています『はじめての根管治療で失敗する5つの原因』(SUNDQVIST et al. Endodontic Topics 2003 から引用)、毎度復習になりますが、

 

虫歯が進行していても、歯髄をとらないほどひどい痛み(歯髄炎)の段階でも、まだ細菌は根の中に蔓延していないことが多いです。

では、なぜもともと細菌が蔓延していない根管内に細菌が入ってしまい、根管治療が失敗してしまうのでしょうか?

その原因は。。。。。

 

原因① 無菌的治療がなされていない 一番大切

原因② アクセスキャビティーが適切でない

原因③ 根管の見落としがある

原因④ 機械的拡大が不適切

原因⑤ 修復物からの漏洩

本日は4つめの原因『機械的拡大が不適切』について、お話していきますね。

 

機械的拡大とは、根っこの穴(根管)を機械を使って広げることです。

神経をとる治療(抜髄治療)の時には、根っこの穴(根管)には神経がつまっています。

こんな感じです(歯の縦断面)。

normal_convert_20130720132821

この中につまっている神経を、器具を使って根管を広げながら取り除くのです。

ここで神経の取り残しがあると、細菌感染した場合に細菌の栄養源になるのでとても良くないです。

機械的拡大をしっかりおこなうことは、とても大切なのです。

実際には機械的拡大だけではなく、現在では殺菌のための液体の洗浄液を一緒に使用しながらおこなう

機械化学的洗浄法(BMI: Biomechanical instrumentation)が推奨され一般的におこなわれています。

根の穴を広げないと、洗浄のお薬が根の中にを行き渡りにくいのです。

これは数々の論文で裏付けられた事実です。

神経をしっかり取り除くためには、ある程度の太さまで穴を広げることが必要です。

この穴を広げる太さが不十分なことを、『機械的拡大が不十分』というのです。

神経をとる抜髄治療だけでなく、すでに根の中が感染して根尖性歯周炎(根っこの病気)を発症している歯(感染根管)の根管治療でも、機械的拡大をしっかりおこなうこと=細菌の量がより減ること、となります。

(残念ながらどんなに広げても細菌はゼロにはなりませんが…..

 

以下に機械的拡大を語る際にははずせない有名なDaltonらの論文をご紹介いたしますね。

Daltonらは、機械的拡大のみで根の中の細菌がどのくらい減るかを実験しています(洗浄は生理食塩水を使用)。

機械的拡大はSS(ステンレススチール)とNi-Ti(ニッケルチタン)二つのファイルで比較しています。

下のグラフの縦軸が細菌の量、横軸が機械的拡大の太さ(拡大号数)です。右に行くほど拡大が大きくなっています。

注目すべきなのは、赤○から紫○へと拡大号数が大きくなるにつれて、細菌が減っているということです。一番細菌が減っている紫○のS4はSSでは#35〜#40のサイズです。

 

dalton

(Dalton BC et al.  J Endod 1998より引用)

 

ここで、もう一つわかることは、細菌を減らすのに、使用器具は関係なくSSファイルを使おうがNi-Tiファイルを使おうが拡大が大きくなれば細菌は減っています。

もちろん拡大の効率、レッジができにくい、などNi-Ti使用にはメリットがたくさんありますが細菌を減らすという目的では両者に差はないということです。

 

以下まとめです。

 

機械的拡大が不十分だと。。。。

はじめての根管治療(抜髄治療 )では

●細菌の栄養源となる、神経を取り残しやすい

●洗浄液が行き届きにくいため、根の中をきれいにお掃除しにくい(つまり神経が残りやすい)

感染根管(再治療やすでに神経が死んでいる)では

●細菌を減らしにくい

●汚染を取り残しやすい

●洗浄液、殺菌の薬を効かせたい部分に届かせにくい

 

レントゲン写真で症例を見ていきましょう。

下のレントゲンは感染根管の再治療ですが、赤○の6番は機械的拡大が不十分です。

青○4、5番はしっかり拡大されているのが根管充填からもわかりますね。6番は拡大不足から根管充填も不適切で、根の中に神経の残骸や汚染がたっぷり残っているのが想像できます。そして遠心のクラウンの下に虫歯もありそうだなと。。。ということで、赤○の6番には根っこの病気(根尖性歯周炎)もできています。

 0000000233_佐々木 啓_IntraOral_20130828105318

 

もう一つ、下のレントゲンも赤○の2,3番は青○にくらべて機械的拡大が不十分です。

こちらも神経の残骸、虫歯、からかなりの汚染、細菌たっぷりの状態が予測できます。

ということで、赤○には根っこの病気(根尖性歯周炎)もできています。

0000000233_佐々木 啓_IntraOral_20130828105101

 

 

さて、機械的拡大について、少しご理解いただくことはできましたでしょうか?

根管治療を専門とする歯科医たちはこういったことを考えながら日々治療に取り組んでいるのです。

 

次回、最後の『原因⑤ 修復物からの漏洩』は治療後の再発に関するとっても大切なところです。

ついにこのシリーズも残り1つになりました。

皆様にご理解頂けるよう、気合いをいれて頑張ります

 

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