根管治療に関する記事を中心に、専門的ながら大切なことを治療例をまじえて、一般の方にもわかりやすく解説しています。ありきたりな内容ではなく、欧米の論文を精読した内容をベースに信頼性のある有用な情報を発信するよう努めています。(*記事の元になっている引用文献を記載しています)

追記:多くのブログ記事の執筆当時からだいぶ時間が経過しております。最新の研究をもとにした現在の見解や治療のトレンドなどをアップデートできておりませんので、記事によっては当時の見解から変化している場合もあります。(2022.12.28)

根管治療と抗生物質②〜抗生物質で根の病気はなおるのか?

『根管治療と抗生物質』の4シリーズの執筆(2014年)から8年が経過しており、米国歯内療法学会や米国歯科医師会の学術誌(The Journal of the American Dental Association)からは2019年に抗生物質の使用についてアップデートされたガイドラインが出ています。

2022.4.28の記事では最新の情報ベースに根管治療と抗生物質についてアップデートし、より簡潔にした内容を記載してします。

アップデート記事はこちら↓

根管治療と抗生物質update(2022最新と過去記事のまとめ)

↓ここから下が本編です↓

根管治療とは?

まずは大前提として、根管治療とは、根尖性歯周炎(歯の根の周りに起こる炎症の病気)を治す治療法です(または根尖性歯周炎を防ぐ治療、日本の保険診療ではいろいろな制限から防ぐことが難しいのが現状ですが)。炎症がある状態では、痛みや腫れなど不快症状を発症することも多く、日常生活に支障が出ますから病気の治療が必要です。

炎症はなぜ起こる?

炎症の原因は根管内に入り込み根付いてしまった細菌が原因です。お口の中に根尖性歯周炎にかかっている歯がある場合、根管の中で細菌を培養しているようなものなのです。時間が経つにつれ細菌が増えて根付いていきます。根管の細菌に反応して体の免疫反応の結果起こるのが炎症です(根尖性歯周炎)。なので細菌がいなくなれば炎症は治ります。手っ取り早く細菌を取りたい場合、100%の成功率(炎症を治すこと)を求めるのならば抜歯という選択肢が一番早いです。根管治療は歯を抜かずに、根管をお掃除して細菌や細菌の栄養になるようなものを取り除いて、治癒に導く治療なのです。

炎症と痛みの関係
根の中への細菌感染が原因で炎症がおこることは上述の通りですが、では炎症と痛みの関係は?これは炎症のプロセスで発生する様々な化学物質(ケミカルメディエーターといいます)が、神経終末や根尖周囲組織の侵害受容器(痛の刺激を受け取る装置みたいなものです)を活性化、過敏にし、刺激に対する感受性を高めることが原因です。
それ以外にもこのケミカルメディエーターは浮腫による組織圧増加も引き起こします。組織内圧が高まると非常に痛いのです

歯の痛みや治療後の痛みで一般的に出せれるお薬は、ケミカルメディエーターを直接抑える働きは非ステロイド系消炎鎮痛剤(ロキソニン、ボルタレンなど)であって抗生物質ではありません。

前回パート1で書き忘れてしまったのですが、
②細菌以外の痛みの原因として考えるのは
洗浄液の刺激、や器具操作の刺激など、化学的、物理的刺激です(これらの刺激はわかりやすく言うと、針をさしたり、切り傷ができてしまったら、そこが痛い、たたかれたところが痛い、薬品が手についてヒリヒリする、などの類いです。)。こういう化学的、物理的刺激はずっと刺激が続くのではなく、一過性なので 刺激がなくなり安静にすることで通常自然治癒します。

一方根尖性歯周炎は細菌が原因で、細菌を駆逐する役割の免疫細胞は根管内にはいないため、細菌がいる限り細菌の刺激が続きます。なので炎症の病気を治すには何らかのアクション(抜歯または根管治療、外科的治療)が必要です。

患者さんから『抗生物質は細菌を抑える薬だから根の中の細菌にも効くのではないか?抗生物質を飲む方がより細菌をへらしてくれるんじゃないのでは???』というご質問を受けることもあります。
抗生物質は細菌を抑える薬なので、そう思えるのも無理はないと思います。

Q1:根管内の細菌を抗生物質の服用で効果的にやっつけることができるのでしょうか?

A1: できません。なぜなら、根管内には血流がないから

抗生物質で細菌をやっつけるためには、お薬を飲んで、その成分が血流を通して、効かせたい場所に有効な濃度で到達しないといけないのです。根尖歯周炎になっている歯は、根管に歯髄はないか、あっても死んでいる、ため、血管はなく、血流がありません。歯根の周りの骨や歯根膜、までは血流がありますが、根管につながる入り口で、その血流は途絶えてしまいます。
血の流れがないのに、どうやって薬の成分が根の中に到達できるのでしょう?
(**いくつかの論文では、血の巡りではない経路でで根の中のにお薬の成分が届くという報告もありますが、時間がかかる、または効果のでる量が根の中に到達しているかどうか、などに関しては確実な答えがでていません。確実でない効果のために抗生物質を服用することは、耐性菌(抗生物質に対して抵抗性をもつ菌)の発生の問題からも避けなければいけません)

そういったことから抗生物質の内服では、根管内の細菌を取り除くことは不可能なのです。

A2: 根管内の細菌はバイオフィルム化していることが多く、物理的にこそぎ落とさないと細菌を駆逐することができないため。バイオフィルム化している細菌はヌメヌメした膜でコーティングされているので、薬だけで駆逐することが難しいと言われています。

水回りの滑りや掃除をしていない水槽の滑りなどもバイオフィルムです。液体をかけただけでは綺麗にならず、こすり洗いが必要なのは想像しやすいと思います。したがって現在根管内を最も効果的に除菌する方法は根管治療で感染した象牙質、バイオフィルム化した細菌をこそぎ落とし、殺菌の液体で効果的に超音波洗浄を行うこと、が推奨されています。

さて、ここまで進めてきて細菌が原因の根尖性歯周炎、抗生物質の服用で細菌を取り除くことができるか、効果があるか?という問いにはNO!!という答えがでたと思います。

抗生物質を服用することは、耐性菌の問題からも避けた方が良いのです。

けれども、状況によっては抗生物質の服用が必要なケースもあります。
それは、いったいどういう状態なのでしょうか?
腫れているとき、根管内から膿みがでているとき?

次回のPART③では、抗生物質を服用するべきタイミング、判断基準についてご説明していきますね

重要なお知らせ

『根管治療と抗生物質』のブログ記事は4部作となっております。

必ず②③はセットでお読みください。根管治療で抗生物質の服用が必要な場合もあり③で解説しています

根管治療と抗生物質③〜抗生物質を服用するタイミング〜

 

参考文献:

1)Siqueira JF, Rocas IN, Lopes HP . Systemic Antibiotics in Endodontics. In: Siqueira JF ed. Treatment of Endodontic Infections. Germany: Quintessence Publishing; 2011;383-396.

2)ASHRAF F. FOUAD著『Are antibiotics effective for endodontic pain? An evidence-based review. 』Endodontic Topics 2002, 3, 52–66

この記事はリーズデンタルクリニック院長 歯科医師、歯学博士、米国歯内療法学会会員、日本歯内療法学会会員、PESCJ認定医の李光純(Lee Lwangsoon DDS, PhD)によるオリジナルの記事です。

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