LEE'S ブログ
根管治療に関する記事を中心に、専門的ながら大切なことを治療例をまじえて、一般の方にもわかりやすく解説しています。ありきたりな内容ではなく、欧米の論文を精読した内容をベースに信頼性のある有用な情報を発信するよう努めています。(*記事の元になっている引用文献を記載しています)
追記:多くのブログ記事の執筆当時からだいぶ時間が経過しております。最新の研究をもとにした現在の見解や治療のトレンドなどをアップデートできておりませんので、記事によっては当時の見解から変化している場合もあります。(2022.12.28)
はじめての根管治療で失敗する5つの原因①〜ラバーダム防湿と無菌的治療〜
さて、今日は根管治療にまつわるお話にまた戻ろうと思います。『はじめての根管治療で失敗する原因』についてお届けします、
根管治療の話題もいろいろ書いてきているので、だいぶネタに悩むようになってきております
何を書こうかなと悩んだ時はとりあえず論文を読むことにしています。今回は歯の根の病気(根尖性歯周炎)の原因である細菌について、の論文を何本か読みました。細菌学な視点だとわかりにくいので、患者様にわかりやすく治療の視点で書いてみようと思います。
ホームページの『根管治療』のところにも明記してありますが、
根尖性歯周炎の原因はほぼ細菌です。
このことはKakehashi S et al. (1965)によって、ラットを使った実験で立証されております。
神経が生きている間は根管内には相対的に細菌は存在しないと言われています(Haapasalo M et al. 2003)。
細菌さえいなければ、問題はおこらないのです。
誰でもはじめての根管治療は歯髄組織(神経や血管や結合組織などを)をとる処置になると思います。
歯髄組織をとる(抜髄処置といいます)ことになる原因の多くは虫歯です。その他の原因としては歯をぶつけてしまったなどの外傷や、かぶせもの治療のための便宜抜髄などがあります。
でもほとんどの方は虫歯が原因で歯髄組織をダメにしてしまったことが多いのではないでしょうか?
このことにさかのぼって考えていってみましょう。
歯の一番外側はエナメル質で覆われています。
このエナメル質はその内側にある象牙質と歯髄(歯の神経)をお口の中の細菌から、守っています。丈夫な鎧のような役割です。
このエナメル質のバリアが、虫歯で破られると細菌が象牙質に侵入します。虫歯の始まりです
虫歯が進行していても歯髄が生きている状態では根の中に細菌は入れません。
歯髄をとらないほどひどい痛み(歯髄炎)の段階でも、まだ細菌は根の中に蔓延していません。
では、なぜもともと細菌が蔓延していない根管内に細菌が入ってしまい、根管治療が失敗してしまうのでしょうか?
ここで、
『はじめての根管治療で失敗する5つの原因』を5回にわけて詳しくご説明していきます。(SUNDQVIST et al. Endodontic Topics 2003 から引用)
5つの原因は以下の通りです。
原因① 無菌的治療がなされていない
原因② アクセスキャビティーが適切でない
原因③ 根管の見落としがある
原因④ 機械的拡大が不適切
原因⑤ 修復物からの漏洩
早速今日は①をご説明していきますね。
原因① 無菌的治療がなされていない
これは一番重要なことです。どれくらい重要かというと、これをおこなわないとうのは、治療が失敗することを黙認することなのです。つまり、技術の問題ではなく、倫理的な問題と言ってもいいくらいです(残念ながら日本の保険治療のシステムではこの最重要の問題が軽視されているのです)。
具体的にはどういうことを無菌的治療というのか?といと、
まず治療で使う根の中に入れる器具は完全に滅菌されたものでなければいけません。
消毒や殺菌レベルですと器具のまわりにはまだ細菌がゼロではないのです
次にお口の中の細菌が根の中に入らないような工夫、ラバーダム防湿です。
人間の口の中の細菌数は10の10乗(想像もつきませんね)種類は500種類といわれています。
つまり口の中は細菌だらけなのです。神経をとる治療のときに、細菌が根の中(根管)に入らないような配慮をしないと、どんどん流入していってしまうのです。
無菌的処置のためのラバーダム防湿までの治療ステップを、再治療の症例でみていきましょう。
①治療のためにクラウンや土台をはずして根管治療の前に、歯に虫歯が残っていないかをチェックします。
歯の丈もほとんどない状態で、この段階ではまだラバーダムはかけることができません。こんな状態のまま根管治療をしても、唾液や歯のまわりのプラーク(歯垢)、歯に残っている虫歯から細菌がどんどん根の中に流入してしまいます。
②虫歯をとりのぞき、出血や唾液を排除しながら接着の素材で歯の全周に堤防をつくります(隔壁といいます)。
堤防をつくっても、お口の中は唾液にあふれていますので、あっという間に根の中に細菌が入ります。
ここで注意したいのは、隔壁の前に完全に虫歯が取り除かれていることです。中途半端に銀歯や詰め物が残った状態だと、その下に虫歯がかくれていることも多いです。また、接着の素材が歯としっかりくっつくためには血や唾液が歯の表面についていてはいけません。
(日用品で使う、接着剤やセロテープなども、ぬれた表面にはくっつかないですよね?歯科で使う材料もそれと同じなのです)
これは本当に大切なことなのですが、多くの患者様の治療をみていると軽視されているように思います。保険の範囲内の短い治療時間でこういったことに注意を払って治療することはほぼ不可能に近いのでしょう。
③ここまできてラバーダム防湿をおこなえます。
ゴムのマスクを装着するだけでなく、歯とゴムのマスクの隙間をうめることが大切ですし、歯の周りとゴムのマスクも消毒します(この隙間からも唾液は入りますし、高濃度の消毒液がお口の中に漏れることもなく安全です)。
ここまでおこなってはじめて、お口の中の細菌をシャットアウトし根の中に細菌が入らないような準備が整います。
これで根管治療をおこなえます。
使用する器具は完全滅菌、またはディスポーザブルのみ、毎回ものすごくたくさんの器具を使います。
これができてはじめて無菌的処置を達成できたと言えます。
無菌的処置の重要性、わかっていただけましたでしょうか?
これができない日本の保険治療での根管治療では、ほとんどの根の中に細菌が入ってしまっている、といっても言い過ぎではないと思います。
でも、どうか主治医をせめないでくださいね。歯科医が悪いのではありません。国の保険制度が十分でないのです
私も勤務医時代はそのように治療するしか方法がありませんでしたから。。。。。
では、次回は『はじめての根管治療で失敗する5つの原因』②に続きます。