歯のひび、歯根破折
『歯にひびがあるかもしれないと言われた』
『ひびがあるから歯が長持ちしないかもしれないと言われた』
『ひびがあるから抜歯しか手が無いと言われた』
歯のひびといっても、ひびのある場所やひびの入り方、原因によって5つのパターンがあります(米国歯内療法学会による分類)。
このページでは歯のひび、ひび割れの5パターンを米国歯内療法学会の分類を元に改変し、わかりやすく説明していきます。(オリジナルの分類は→米国歯内療法学会(American Association of Endodontists) 無料でPDFがダウンロードできます。)
また、当院院長は根の治療をした歯に起こりやすい歯根破折のリスクに関する臨床研究を行っており、2023年に執筆論文が歯内療法領域で最も権威あるジャーナルの一つJouranl of Endodontics に掲載されました。https://authors.elsevier.com/a/1hqnbMa8OMxVZ
歯のひび、ひび割れ5つのパターンの解説
5パターンのうち4つは歯冠からはじまるひびで、残り一つが歯根に入るひび(歯根破折)に大別されます。歯冠のひびと歯根破折は原因も違います。
歯ぐきから上の歯の頭の部分(歯冠部)のひび、ひび割れ ①~④
原因:噛む力が強かったり、歯軋り、食いしばりの度合いが強かったり、硬い食べ物を好む食生活だったり、と歯にかかる荷重が強く、加齢による時間経過とともに、徐々に歯が消耗して起こることが原因と考えられています。奥歯に一番負荷がかかるため、奥歯に多いです。
①クレーズライン: 歯の表面の亀裂で、エナメル質表面にとどまり、極めて浅く、特に症状もありません、病気の状態ではなく特に治療も必要ありません。歯はひび食事を噛んでいますし、歯軋りなどで擦れたりもします。誰でも加齢による歯の消耗で起こりえる現象と言えます。
②クラック:クラックとは①の浅い亀裂が歯の内部に進行し象牙質や歯の神経にまで達する状態で、神経に刺激が伝わるため痛みの症状も出ますので治療が必要です。進行度合いによって症状は様々で、治療方針も異なります。初期のクラックほど、予後が良好で治療後も歯が長持ちします。方向によっては歯根まで亀裂が深くなることもあり、その場合は予後不良です。
③歯冠破折(フラクチャードカスプ):クラック(亀裂)が進んで、歯の山(咬頭)の一部が破折する状態。
④歯冠破折 (スプリットトゥース):クラックが進み、歯が真っ二つに割れる状態です。破折の終着点が浅めの場合、歯の保存ができる場合もありますが、予後は不透明で延命的な治療となる可能性が高いです。深い位置まで破折している場合、保存は不可能です
歯根破折(歯の根のひび、ひび割れ)⑤
歯の根っこの縦のひびまたはひび割れで、根管治療した歯に多く起こります(ごく稀に、無傷の健全歯でも起こることが報告されています)。
原因:①〜④の歯冠破折とは原因が異なり、主な原因は根管が削られすぎること、または根管治療で過度なストレスがかかることです。歯の耐久性が落ちることが原因ですので、破折した歯根を抜歯する以外に確かな治療法はありません。
**当院院長は根の治療をした歯に起こりやすい歯根破折のリスクに関する臨床研究を行っており、2023年に執筆論文が歯内療法領域で最も権威あるジャーナルの一つJouranl of Endodontics に掲載されました。https://authors.elsevier.com/a/1hqnbMa8OMxVZ
重症度別 症例と治療法の解説
クラック(浅い場合①)
治療法:クラウン治療
症状:亀裂が進行し、象牙質に達すると、クラックを通して歯髄(歯の神経)に刺激が伝わります。 ぐっと噛んだ時に鋭く痛い、または初期の歯髄炎から知覚過敏のような症状。
クラウン治療で歯を外側から取り囲身補強することで、クラックの進行を予防し、クラックから歯髄に伝わる刺激を遮断することで、歯髄炎を押さえます。
クラック(中等度の場合②)
治療法:根管治療+クラウン治療
クラックが象牙質深く、または歯髄まで、達する場合、クラックを通して、お口の中の細菌や刺激が①よりもさらに深く歯髄に影響を与え、歯髄炎を起こします。①よりも深い歯髄炎の場合、健康に戻ることは難しく、歯髄を取り除く必要があります。歯髄炎の状態でも気づかれずに経過してしまう場合歯髄が既に死んでしまっている(歯髄壊死)ことも多いです。
クラック(深い場合で歯根まで進んでいる場合③)
治療法:根管治療+クラウン治療で数年持たせる、または抜歯
クラックが歯根の深い位置まで進んでいればいるほど、治療をおこなっても予後不良なことが多いです。特にクラックに沿って歯周ポケットができてきているような場合は、治療をしてものちにも歯根を通して細菌感染が起きやすく、予後不良です。最初から抜歯の方が良い場合が多いでしょう。歯周ポケットがまだ深くない場合は、根管治療+クラウン治療を行なってみて、のちにクラックが進行する兆候がでた場合(症状再発や、歯周ポケットが深くなる場合)に抜歯という段階的な治療が可能な場合もあります。その場合も定期的なモニタリングは必須で、経験的には早くて2,3年、長くて5~6年ほどの寿命でしょう。
歯根破折(根のひび割れ)の診査法 ~ひびを確認するには?~
歯根破折の確定診断のためには目で見て確認(視認)することが一番正確なため推奨されています。歯根は歯肉で覆われていますので、ほとんどの場合は治療が途中まで必要になります。クラウンをはずし、コア、ポスト(土台)、根管充填剤をはずすして確認します。また、外科的に歯肉をめくって確認する方法もあります。
①レントゲン検査 → 確定診断できません
レントゲンの検査ではひびはほとんどうつらず、パックリ割れているような末期の状態以外ではわからないことが多いです。
下の3症例はひびの疑いと診断され、治療の途中でひびを確認し抜歯したケースです。
レントゲンでひびはうつっていません。
②歯周ポケット測定 → 確定診断できません
局所的に深い歯周ポケットがある場合は、ひびの疑いがありますが、通常ひびは歯肉に覆われて見えません。ひびが目で確認出来ない限りこの時点で確定診断できません。
③CBCT撮影 → 100%の検出率ではありません
CTは解像度にもよりますが、レントゲンよりは検出精度はあがります。けれども、ある程度ヒビが開かないとほぼ分からず、また根管充填材のアーチファクトで画像が不鮮明になるため、検出できない場合が多いです。
④目で見て確認する → 確実に確認する唯一の方法 途中まで治療が必要な場合がほとんどです(診断のための治療)
目で見て確認するためには、被せものをはずし、土台をはずし、さらには根管治療をおこない、ひびの染め出しをおこない、顕微鏡で確認をします。
治療を進めるため、治療費用が発生します。ひびの確定診断のための診断的な治療です。途中でひびが見つかった場合にはその時点で抜歯となります。ひびが見つからなければ、そのまま治療を進めます。
⑤抜歯してはじめて確認できる
死角になっている部分(たとえば歯の根っこの先端だけにひびがある場合など)にひびがあった場合、歯を抜いてみて、はじめてひびが見つかったということもありえます。
このように、ひびの疑いがあるけれども確定診断が出来ないことが多いのですが、確認するためにはそれにかかる治療費用が発生します。
途中でひびが見つかった場合には治療費用が無駄になってしまいますので、それが嫌だなと思われる場合は、ひびの疑いの段階で抜歯をするという選択肢もあります。
歯のひび割れの検出例
①治療前(根管治療初診時)にひびが見つかったケース、②前処置の段階でひびが見つかったケース、③根管治療の1回目でひびがみつかったケースをご紹介していきます。
①根管治療初診時にひびが見つかったケース
このケースは歯肉が退縮して、クラウン下の歯の部分が見えています。 通常の初診でおこなう歯周ポケット検査で部分的に深いところがありました。
ひびの染め出しをおこない、ひびが目で確認出来ました。 初診の診査とひびの染め出しだけで診断できたケースです。
②被せ物、土台をはずした段階でひびが見つかったケース
レントゲン検査では難しい、歯の根のひび割れ
歯の根のひびは歯ぐきで隠れてしまっていることがほとんどです。その場合肉眼ではひびがみえません。レントゲンでひびがわかればいいのですが、わからないことが多いです。CTはレントゲンよりは検出精度はあがりますが、100%ではありません。確定診断のためには目で見て確認(視認)するしかありません。そのためにはクラウンをはずし、コア、ポスト(土台)をはずす治療をすすめなければいけません。根管治療中にひびがみつかることもあります。
ケース① 歯肉の腫れを訴えてご来院の患者様
歯の根のひび割れがおこりやすい状態とは?
歯の根のひびは太いポスト(土台)がはいっている歯におこりやすいです。なぜなら歯が薄くなってしまっているからです。そのような薄い歯に過度な咬む力がかかることで、歯のひびが発生しやすくなります。
③根管治療の途中でひびがみつかったケース
このケースは術前検査で深い歯周ポケットがあり、レントゲン検査でもひびの疑いが高かった症例です。費用がむだになるかもしれませんが、可能性が0パーセントでないのならと、治療をご希望されたため、着手いたしました。
銀の被せ物、土台をはずして、虫歯の除去をおこないます。その後ひびの染め出しをおこないます。虫歯があると、虫歯に隠れてひびがわかりにくいのです。ここまでの処置は根管の入り口までの染め出しとなり、この時点ではひびは検出されませんでした。
写真左:根管治療にはいり、根管の古い充填材をはずした状態で染め出しをおこなうと、ひびが検出されました。この時点で残念ながら抜歯となりました。抜歯した歯の根にはひびが根の先端まで広がっていました。
注:根管治療ではひびが最後まで検出されず、外科処置の時に検出される場合もあります。
また、目で確認出来ない場所にあるひびは最後までわからず、抜いてはじめてひびが目で確認出来たということもあります。
治療法
歯の根っこのひびの治療は基本的には抜歯です。
(ひびが浅い場合、ひびの範囲が根っこの方向に進みすぎていない場合は歯を保存出来る場合もあります)
*接着などでひびを修復するという方法もありますが、延命治療的な方法であって根本的に健康な状態に戻るわけはありません。
歯の根のひび割れをそのままにしておくとどうなるか?
ひびは細菌の通り道になります。
根のひびという感染源があるわけですから、周りの骨も溶けつづけてしまいます。
歯周病も併発するという事です。のちにインプラント治療をご希望されている場合、骨の喪失はなるべく避けたいですし、前歯などで骨が溶けた場合は歯肉が陥没したようになってしまい、暗い影になり審美的に悪影響となります。