根管治療に関する記事を中心に、専門的ながら大切なことを治療例をまじえて、一般の方にもわかりやすく解説しています。ありきたりな内容ではなく、欧米の論文を精読した内容をベースに信頼性のある有用な情報を発信するよう努めています。(*記事の元になっている引用文献を記載しています)

追記:多くのブログ記事の執筆当時からだいぶ時間が経過しております。最新の研究をもとにした現在の見解や治療のトレンドなどをアップデートできておりませんので、記事によっては当時の見解から変化している場合もあります。(2022.12.28)

根管治療と痛み③歯に異常がないのに痛い、原因は?

皆様こんにちは。根管治療と痛みについて3回目の記事をお届けします。

根管治療と痛みに関して、1回目の治療前には痛みがなかったケース』2回目の『治療をしても痛みが改善しないケース』続き、

本日は『根管治療が終了し、根の病気はなおっている、または根っこに異常がないのに痛い』

です。

『通院中の歯科医院で、根管治療を受けました。治療が終わってもずっと痛いままです。先生はレントゲンに影もないし問題はなさそう、原因がわからない、とおっしゃっています。根管治療専門医の治療をうければよくなるのでしょうか?』

2回目のテーマと同じ根管治療をしても痛みがおさまらない、ということなのですが、

違いは、2回目のケースは『根管治療をしたけども、病気がなおっていない場合で痛い』であるのに対して、

今回のケースは、『根管治療で病気がなおり歯に異常がないのに痛みが改善しない』というテーマです。

実はこの悩みを抱えていらっしゃる患者様は多くいらっしゃいます。リーズデンタルクリニックに根管治療の初診でお越しになる患者様のうち、1,2割を占めるほどです。

原因がわからず何度も根管治療をやりなおし、どんどん歯が薄くなってしまっている方もいらっしゃいます。

痛みの原因がわからず、なかばノイローゼのようになってしまっている方もいらっしゃいます。

歯に異常がないのに痛い、そんなことが本当にあるのでしょうか?

とても難しい問題なので、ステップバイステップで解説していきます。

こういったケースでは

まずは、本当に根っこに問題がないかどうか?を確認することが大切です。

根っこに病気があるかどうかを、判断する上で一番の方法はレントゲン写真で黒い影があるかどうかです。

矢印部分

根管治療 痛み

(とくに下の奥歯など歯の部位によっては、骨が分厚く病気が小さいとでマスキングされてしまいレントゲンで黒い影がわかりにくいところもあります。その場合はCBCTの撮影をおこないます)

その他に、歯茎の腫れや、膿の出口(フィステル、サイナストラクトなどとよばれます)がある場合も、根っこの病気がある証拠になります。

そしてそれに伴い、歯の診査(打診や触診)での反応を正常な歯の反応と比較しながら確認していきます。

根管治療 痛み

では、治療後にフィステルや腫れもなくなり、黒い影も消えたのに痛みだけが残る場合はどういうことが考えられるでしょう?

下のレントゲン写真を見てください。 このように黒い影が完全になくなる場合(またはもともとない場合)は、痛みの原因が歯ではないことを考えます。

根っこに黒い影がない状態

 根管治療 痛みnolesion

黒い影がないけれども、歯にひびがあるのではないか? ひびが原因で痛いのではないか?と思われている方も多いようです。

たしかにそういったことも考えられなくはありませんが、ひびがあるところは細菌の通り道になり、炎症がおこります。

なので時間の経過とともに必ず黒い影がレントゲンでうつるようになってきます。

 痛みの原因がわからない段階では、何かの治療をするべきではないのです。

診査、検査を念入りにおこない、歯に問題がないと判断された場合、では痛みの原因はなんなのか?どうしてそんなことがおこるのか?

以下、根管治療が成功しているのに、術後の痛みに悩まされることについて、

N. Polycarpou et al. Prevalence of persistent pain after endodontic treatment and factors affecting its occurrence in cases with complete radiographic healing. IEJ2005 からと冬休みに読んだSiqueira のEndodontic infectionsからの内容を解説していきます。

 

痛みの原因〜歯が原因でないとしたらいったい何が原因??〜

中枢感作(Central sensitization)という言葉は、歯科医でも聞きなれないと思います。私も痛みに関する文献を読んでいて初めて知りました。

中枢感作は、中枢神経系の知覚シグナルの異常な増幅によって感覚に変化がおこることだそうです。

中枢感作が起こりやすい要因としては、以前の痛い治療の経験や術前の痛みが、中枢や周辺の感覚変化をもたらし、しつこく長引く術後の慢性疼痛を誘発する可能性がいわれています。

なんだかいまいちよくわからないと思いますが、この中枢感作が問題のようです。

N. Polycarpou らの研究で、175人の成功した根管治療の術後の経過を追い、治療成功後も残るしつこい痛みが12%(21人/175人)に発生していることを報告しています。

データから、痛みの発生に関連する要因はとくに術前に歯の痛みがあり、その痛みが少なくとも3ヶ月続いている場合、慢性疼痛の既往や、過去に顎顔面領域で痛い治療をうけた既往、女性であることがリスクファクターであると報告しています。

もともとは炎症性の痛みや治療での痛みですが、一度中枢感作がおこると、炎症がおさまり、治療が終わっても中枢神経系におくる神経インパルスは増大し続けてしまい、痛みが持続してしまうそうです。そして二次的にアロディニアや痛覚過敏の原因となってしまうという辛い状況にもなりえます。

一度こういう状況になってしまったら、痛みの専門機関では薬物療法をおこなうことが多いようですが、絶対に治るという治療法は現在無いようです。

リーズデンタルクリニックでも痛みでお辛い患者様に対して、何もできることがなく、がっかりして帰られれます。

この論文から、中枢感作がおこらないためには、痛みを経験しないほうが良いので早めの治療を、痛くなる前に治療を行なったほうが良いといえると思いました。

歯医者さんにいったら神経をとられてしまう。だから歯医者にいかず我慢する、なんて絶対しないようにしてください。

炎症がおきた神経は可逆性でない限りは、ほっておいたら死んでしまいますし、死んだら腐って根っこの病気になってしまいます。

可逆性(一時的にお水でしみるくらい)の場合は治療で助かることも多いです。

*中枢感作も起こっていて、歯にも病気がある場合は、痛みの原因が歯なのか、中枢感作なのかを判断するためには、まずは歯の治療をしなければいけません。

以上、3回にわたって『根管治療後の痛み』3つのケースについて解説しました。ご自分の症状にあてはまるものはありましたでしょうか?

1,2のケースは根管治療専門医の治療で90%以上は解決が可能です。

根管治療についてより詳しくお知りになりたい方はこちらをご覧ください

LEE’S DENTAL CLINICの根管治療

 

1)Siqueira JF, Rocas IN, Lopes HP . . In: Siqueira JF ed. Treatment of Endodontic Infections. Germany: Quintessence Publishing; 2011;383-396.

2)N. Polycarpou et al. Prevalence of persistent pain after endodontic treatment and factors affecting its occurrence in cases with complete radiographic healing. IEJ2005

この記事はリーズデンタルクリニック院長 歯科医師、歯学博士、米国歯内療法学会会員、日本歯内療法学会会員、PESCJ認定医の李光純(Lee Lwangsoon DDS, PhD)によるオリジナルの記事です。

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