歯のひび、歯の根のひび割れ
『歯にひびがあるかもしれないと言われた』
『ひびがあるから歯が長持ちしないかもしれないと言われた』
『ひびがあるから抜歯しか手が無いと言われた』
歯のひびといっても、ひびのある場所によって状態は様々です。
歯ぐきより上の歯の頭の部分(歯冠)にひびがある場合と歯の根っこ(歯根)にひびがある場合では全く状況がちがいます。根に入った深いひびの根本的な治療は不可能です。歯の頭の部分のひびでしたら、歯を保存できる場合も多いです。
歯のひび、歯のひび割れいろいろなパターン
歯ぐきから上の歯の頭の部分(歯冠部)のひび
①浅いひび
このタイプのひびは浅いうちは症状も無く、とくに治療の必要はありません。ひびが深くなると、ものをぐっと咬んだ時に痛い、などの症状がでます。さらにひびが深くなると、神経にむかって刺激や細菌の通り道になり神経の炎症がおこります。そうなると神経の治療が必要になってくる場合もあります。
![]() 詰め物(レジン)が欠けて(→) 、その部分にひびがみられます(→) | ![]() 角度を変えてみたところ。ひびがはっきりみえます(→) |
治療法
咬む力が強くかかる部分にひびが発生します。詰め物も欠けやすいです。ひびから歯を守るためにはクラウン治療をおこないます。

クラウン治療後(奥歯の場合、金属での治療をおすすめいたします)
②深いひび:ひびわれになっています。歯肉縁下までひび割れが進んでいます。歯を残せるぎりぎりの境界です。
![]() このくらい進行するとあきらかに症状があります。咬んでいたい、しみる、ズキズキする、などです。 | ![]() 神経の炎症が強い場合は根管治療が必要な場合がほとんどです。 |
歯ぐきより下のひび/歯の根(歯根)のひび、ひび割れ
歯の根のひびは歯ぐきで隠れてしまっていることがほとんどです。その場合肉眼ではひびがみえません。レントゲンでひびがわかればいいのですが、わからないことが多いです。CTはレントゲンよりは検出精度はあがりますが、100%ではありません。確定診断のためには目で見て確認(視認)するしかありません。そのためにはクラウンをはずし、コア、ポスト(土台)をはずす治療をすすめなければいけません。根管治療中にひびがみつかることもあります。
レントゲンではわからない、はずさないとわからない歯の根のひび割れ①
歯の揺れと違和感を訴えてご来院の患者様
![]() 術前のレントゲン写真。根っこ病気(▲)がみられます。 | ![]() セラミックのかぶせものがかぶっている状態です(○) |
この時点の診査ではひびの疑いはありません。
![]() はずした状態のレントゲン写真。このレントゲンでもひびは写っていません。 | ![]() はずした状態の歯の写真歯の根っこが割れています。 |
こんなにはっきり割れていても、レントゲンで写らない事も多いです。
レントゲンではわからない、はずさないとわからない歯の根のひび割れ②
歯肉の腫れを訴えてご来院の患者様

術前のレントゲン写真。太い根管充填と土台が入っています。深い歯周ポケットはありましたが、このレントゲンだけで根のひびは確定診断できません。
![]() 歯肉が腫れています(▲)クラウンをはずした土台の状態 | ![]() 土台をはずし、ひびの染め出しをした状態。はっきりとひびが確認出来ます(→) |
![]() 抜歯をしたところ。根っこをとりまくようにひびがあります(▲) |
歯の根のひび割れがおこりやすい状態とは?
歯の根のひびは太いポスト(土台)がはいっている歯におこりやすいです。なぜなら歯が薄くなってしまっているからです。そのような薄い歯に過度な咬む力がかかることで、歯のひびが発生しやすくなります。
![]() 太く長い金属のポストが入っている状態。歯が薄くなってるためひび割れのリスクが高いです。 | ![]() |
歯のひび割れの診査 ~ひびを確認するには?~
①レントゲン検査 → 確定診断できません
下のレントゲン写真のように完全に歯の根がぱっくり割れている場合を除いて、レントゲン検査で確定診断は不可能です。
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下の3症例はひびの疑いと診断され、治療の途中でひびを確認し抜歯したケースです。
レントゲンでひびはうつっていません。
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②歯周ポケット測定 → 確定診断できません
局所的に深い歯周ポケットがある場合は、ひびの疑いがありますが、通常ひびは歯肉に覆われて見えません。ひびが目で確認出来ない限りこの時点で確定診断できません。
③CBCT撮影 → 100%の検出率ではありません
④目で見て確認する → 確実に確認する唯一の方法 途中まで治療が必要な場合がほとんどです(診断のための治療)
目で見て確認するためには、被せものをはずし、土台をはずし、さらには根管治療をおこない、ひびの染め出しをおこない、顕微鏡で確認をします。
治療を進めるため、治療費用が発生します。ひびの確定診断のための診断的な治療です。途中でひびが見つかった場合にはその時点で抜歯となります。ひびが見つからなければ、そのまま治療を進めます。
![]() 治療前のレントゲン写真。腫れを繰り返していますが、レントゲンだけで確定診断できません。 | ![]() 治療途中でひびを染め出し、確認される(↓)。これではじめて確定診断できます。 | ![]() 抜歯後(↓がひびです)。青い部分が歯ぐきより上の歯の頭の部分です。 |
歯の根っこのひび割れの場合は、ひびの部分ははぐきにおおわれているので、ぱっと見ただけではほとんどわかりません。治療を進めて行かないと、検出が難しいのです。
⑤抜歯してはじめて確認できる
死角になっている部分(たとえば歯の根っこの先端だけにひびがある場合など)にひびがあった場合、歯を抜いてみて、はじめてひびが見つかったということもありえます。
このように、ひびの疑いがあるけれども確定診断が出来ないことが多いのですが、確認するためにはそれにかかる治療費用が発生します。
途中でひびが見つかった場合には治療費用が無駄になってしまいますので、それが嫌だなと思われる場合は、ひびの疑いの段階で抜歯をするという選択肢もあります。
歯のひび割れの検出例
①治療前(根管治療初診時)にひびが見つかったケース、②前処置の段階でひびが見つかったケース、③根管治療の1回目でひびがみつかったケースをご紹介していきます。
①根管治療初診時にひびが見つかったケース
このケースは歯肉が退縮して、クラウン下の歯の部分が見えています。 通常の初診でおこなう歯周ポケット検査で部分的に深いところがありました。
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ひびの染め出しをおこない、ひびが目で確認出来ました。 初診の診査とひびの染め出しだけで診断できたケースです。
②被せ物、土台をはずした段階でひびが見つかったケース
症状はありませんでしたが、銀のクラウンのすきまから虫歯になっていたため、治療着手となりました。レントゲンでもひびをうたがう陰はありませんでしたが、歯周ポケットはやや深い状態でした。クラウンで歯がおおわれているため、見た目で異常は検出できませんでした。ひびの染め出しをすると、ひびが検出されました。浅いひびでしたら削ればなくなるため少し削ってみましたが、ひびはなくなりませんでした。このケースは根管治療には入らず、前処置で治療終了、抜歯となっています。
![]() 術前の状態 | ![]() ひびの染め出し後 |
③根管治療の1回目でひびがみつかったケース
このケースは術前検査で深い歯周ポケットがあり、レントゲン検査でもひびの疑いが高かった症例です。費用がむだになるかもしれませんが、可能性が0パーセントでないのならと、治療をご希望されたため、着手いたしました。
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銀の被せ物、土台をはずして、虫歯の除去をおこないます。その後ひびの染め出しをおこないます。虫歯があると、虫歯に隠れてひびがわかりにくいのです。ここまでの処置は根管の入り口までの染め出しとなり、この時点ではひびは検出されませんでした。
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写真左:根管治療にはいり、根管の古い充填材をはずした状態で染め出しをおこなうと、ひびが検出されました。この時点で残念ながら抜歯となりました。抜歯した歯の根にはひびが根の先端まで広がっていました。
注:根管治療ではひびが最後まで検出されず、外科処置の時に検出される場合もあります。
また、目で確認出来ない場所にあるひびは最後までわからず、抜いてはじめてひびが目で確認出来たということもあります。
治療法
歯の根っこのひびの治療は基本的には抜歯です。
(ひびが浅い場合、ひびの範囲が根っこの方向に進みすぎていない場合は歯を保存出来る場合もあります)
*接着などでひびを修復するという方法もありますが、延命治療的な方法であって根本的に健康な状態に戻るわけはありません。
歯の根のひび割れをそのままにしておくとどうなるか?
ひびは細菌の通り道になります。
根のひびという感染源があるわけですから、周りの骨も溶けつづけてしまいます。
歯周病も併発するという事です。のちにインプラント治療をご希望されている場合、骨の喪失はなるべく避けたいですし、前歯などで骨が溶けた場合は歯肉が陥没したようになってしまい、暗い影になり審美的に悪影響となります。