根管治療に関する記事を中心に、専門的ながら大切なことを治療例をまじえて、一般の方にもわかりやすく解説しています。
ありきたりな内容ではなく、欧米の論文を精読した内容をベースに信頼性のある有用な情報を発信するよう努めています。疑問に思ったことは徹底的にリサーチします。学会参加報告記や、お知らせ、プライベートのくだらないお話もごくたまに、綴っております。

根管治療と抗生物質④〜効く薬、効かない薬があるのはなぜ?〜

2014.02.25 | 根管治療と抗生物質 |

こんにちは。李です。

寒い日が続いておりましたが、今日からは少し春の気配を感じられますね。

そろそろ寒さに飽きて春の暖かさが恋しくなってきます。

 

 さて、ずっと続けてきた根管治療と抗生物質シリーズも今日で4回目、最終回です。

この根管治療と抗生物質シリーズをブログにすることになったきっかけは、

『セフェム系のフロモックスよりも、マクロライド系のジスロマックの方が効くような臨床感があるけど、どうしてなのか?』という疑問でした。

この疑問に対して、得られた回答をご紹介していきますね。2つあります。

(今回も参考文献はASHRAF F. FOUAD『Are antibiotics effective for endodontic pain? An evidence-based review. 』Endodontic Topics 2002です。)

 

まず回答①セフェム系使用での耐性菌の問題

ペニシリン系、セフェム系(フロモックスはこれ)の抗生物質はβラクタム構造をもっていることから、βラクタム系と分類されています。

細菌の中には、このβラクタム構造を分解して壊すβラクタマーゼというものを産生する細菌がいて、その細菌には効かないのです。

なぜ、効かない細菌がいるのか?それが耐性菌の問題です。

歯の病気に関わる細菌の多くはβラクタム系抗生物質に感受性ある(効く)のですが、過去にβラクタム系抗生物質の服用の既往があるとβラクタマーゼ産生菌の発生率が高くなるそうです。そしてこういった細菌にはβラクタム系抗生物質が効かなくなってしまいます。

なので、安易に抗生物質の服用することは耐性菌を作ってしまうことになりかねません。とても危険なのです!!!

 

次に回答②マクロライド系抗生物質が抗炎症の特性を持っているかも???

マクロライド系(クラリス、ジスロマックなど)は、セフェム系とは別の分類の抗生物質です。これはまだ、医科領域での最近の報告であり、根管治療の領域での報告はありません。これからいろいろ研究が進むであろうと思いますが初めて知ったことなので、ぜひ皆様にお知らせしたいと思います

これまでずっと、抗生物質は細菌を抑えるお薬で痛みを抑える効果はないことをお話ししてきました。

鎮痛剤や抗炎症剤の方がダイレクトに痛みの原因である炎症メディエーターに作用するためです。

しかしマクロライド系の抗生物質の中に抗炎症特性(抗菌作用とは関係なく)をもつものがあることがわかってきているそうです。

エリスロマイシンの長期服用で喘息や気管支炎に効果があるとの報告があります。(Miyatake HF et al. Chest 1991, Itkin IH et al. J Allergy 1970)

このことが、根の病気(根尖性歯周炎)に効いているというエビデンスはまったくありませんが今後研究が進むとこういったことが明らかになってくるかもしれませんね。

 

論文を読んでて面白いのが、こういう知らなかった知識に出会った時です。とても面白くて興奮します

今後もこういう面白い出会いがありましたら、どんどんご紹介していきますね!

それでは、4回にわけてお話してきました『根管治療と抗生物質』シリーズ、今日で終わりとさせていただきます

3月はAE学会で福岡に行ってきますので、そのことをまたブログでご報告いたしますね。

 

 

 

 

●根管治療と抗生物質③〜抗生物質を服用するタイミング〜

2014.02.04 | 根管治療と抗生物質 |

皆様こんにちは!李です。昨日とはうってかわって真冬の寒さですね

雪との予報ですが、ちらちらと降ってきましたね。とても寒いので風邪に注意してくださいね。

 

さて、HPリニューアル後、はじめての根管治療の記事です。

引き続き、根管治療と抗生物質についてお話を進めていきますね。

パート①、②では、根管治療の痛みには、根管治療によって細菌を取り除くことと、炎症の過程で発生するケミカルメディエーターにダイレクトに働きかける鎮痛剤の組み合わせが一番良いとお話ししました。

ただ、抗生物質を服用するべきときも、確かにあります。

それは、感染が全身に広がろうとしている兆候があるときです。

さて、その兆候とは?

 

それは熱がでる、顔が腫れる、リンパ節が腫れる、腫れのせいで口が開かないなどです。

かつて私は、歯肉が腫れているとき、膿みが出ているときなどに患者様に抗生物質を服用していただいていましたが、ASHRAF F. FOUAD『Are antibiotics effective for endodontic pain? An evidence-based review. 』Endodontic Topics 2002を読んでからは、明確な基準ができました。歯肉の腫れや、膿みがでているかどうかは、局所の炎症です。全身に広がっている感染ではありません。

 

熱がでる、リンパ節が腫れる、

これは、宿主の免疫力と細菌のバランスがくずれた状態と言えます。

通常、私たち人間の体には細菌を抑える免疫力というものが備わっています。

たとえば、切り傷などでいちいち抗生物質を飲む人はいないと思います。傷から多少細菌が入っても血液内の免疫細胞が細菌をやっつけますので、全身に細菌が広がらず治癒します。

パート②でお話したように、根の中には血の流れがないので、体の力で根の中の細菌は自然とやっつけられないのですが、根の中から出た細菌がひろがらないように体は働いているのです

それが体の免疫力です!!

体の免疫力と細菌のバランスは綱引き状態で拮抗しているのです。宿主の抵抗力が落ちてしまうと、バランスが崩れて、細菌が勝ち感染が全身に広がってしまうのです。

そう聞いても、ピンとこないかもしれませんね、簡単にご説明すると

体の免疫力→感染が広がらないようにしている

根管治療→感染源(細菌やその栄養源)を取り除く

です。

人間の体ってすごいなあ、って思います

 

ですので、熱がでる、顔やリンパ節が腫れる、は宿主の抵抗力が細菌に負けて、感染が広がっていると判断し、抗生物質の助けが必要となるのです。重度の場合は入院が必要な場合もあります。また、もともと免疫力が低下してしまう、感染しやすい病気を持っている患者様にも抗生物質が必要です。

 

 

さて、ここで論文の紹介です。

根の周りの痛み(根尖周囲の症状)に抗生物質は効果があるかどうかを調べた4つの論文をご紹介します。

神経が死んでいる歯(壊死歯髄)で、根の周りの痛み(根尖周囲の症状)がある場合に、根管治療+鎮痛薬の治療をおこなった場合、根管治療+抗生物質服用の場合で比較しています。

Fouad AF(ooo.1996)、Henry M et al.(J.Endod 2001) 、Torabinejad Met al. (J.Endod 1994)、Torabinejad M et al.(J.Endod 1994)

4つのうち、Torabinejadらの研究では抗生物質が重度の痛みに効果的という結果でしたが、他の2つの研究は影響無しという結果です。ここで問題なのは、Torabinejadらの研究は比較サンプルに偏りあると指摘され、信頼度が劣ります。

 

結論:

根管治療の痛みで、健康な患者様では局所の腫れで、抗生物質は必要ありません!!

 

 

●根管治療と抗生物質②〜抗生物質で根の病気はなおるのか?

2014.01.24 | 根管治療と抗生物質 |

皆様こんにちは。李です。
今週末は春の陽気になるそうですね
ジョギングすると気持良さそうですが、私は週末はお仕事です。

さて、今日は前回の『抗生物質と根管治療』の続きをお届けいたします。このテーマ、ご好評いただいているようで嬉しいです。皆様興味のあるトピックなのでしょうね
今回の記事も前回と引き続き、
ASHRAF F. FOUAD著『Are antibiotics effective for endodontic pain? An evidence-based review. 』Endodontic Topics 2002, 3, 52–66をもとに、ご説明していきますね。
まずは前回の内容を簡単にまとめてみました

①根管治療の痛みの原因とプロセスについて
根の中への細菌感染が原因で炎症がおこり、炎症のプロセスで発生する様々な化学物質(ケミカルメディエーターといいます)が、神経終末や根尖周囲組織の侵害受容器(痛の刺激を受け取る装置みたいなものです)を活性化、過敏にし、刺激に対する感受性を高めることが原因であることをお話ししました。
それ以外にもこのケミカルメディエーターは浮腫による組織圧増加も引き起こします。組織内圧が高まると非常に痛いのです

前回書き忘れてしまったのですが、
②細菌以外の痛みの原因として考えるのは
洗浄液の刺激、や器具操作の刺激など、化学的、物理的刺激です(これらの刺激はわかりやすく言うと、針をさしたら、そこが痛い、たたかれたところが痛い、薬品が手についてヒリヒリする、などの類いです。)。こういう化学的、物理的刺激による炎症は一過性のもので、すぐに治まります。

前回の終わりにこの痛みのプロセス、ケミカルメディエーターを直接抑える働きは消炎鎮痛剤(ロキソニン、ボルタレンなど)であって抗生物質ではないことをお伝えしました。

反論として、『抗生物質は細菌を抑える薬だから細菌が原因の根尖性歯周炎には、抗生物質を飲む方がより細菌をへらしてくれるんじゃないの???』という一瞬理にかなったと思わせるロジックをご紹介しました。
そして今日はこのロジックの穴について、お話していきます。

Question①根管内の細菌を抗生物質の服用で効果的にやっつけることができるのでしょうか?

まず、抗生物質で細菌をやっつけるためには、お薬を飲んで、その成分が血流を通して、効かせたい場所に有効な濃度で到達しないといけないのです。

皆様、考えてみてください!
壊死歯髄(神経が死んでいる)や、根管治療歯の根管内には血流(血が巡っていること)がありません。
血の流れがないのに、どうやって薬の成分が根の中に到達できるのでしょう?
(**いくつかの論文では、血の巡りではない経路でで根の中のにお薬の成分が届くという報告もありますが、時間がかかる、または効果のでる量が根の中に到達しているかどうか、などに関しては確実な答えがでていません。確実でない効果のために抗生物質を服用することは、耐性菌(抗生物質に対して抵抗性をもつ菌)の発生の問題からも避けなければいけません)

 

では、
Question②抗生物質を直接根管内に貼薬する場合はどうでしょう?

現在根管内の貼薬には水酸化カルシウムがメインに使われます。
水酸化カルシウムの殺菌効果は過去から現在まで様々な論文で検証されていますが、抗生物質の根管内への貼薬については、あまり報告がないそうです。
ダイレクトに抗生物質を作用させると殺菌に効果が高いんじゃないか??などと思ってしまいますけれども、
このトピックを語るにはさらなるリサーチが必要そうです

さて、ここまで進めてきて細菌が原因の根尖性歯周炎、細菌をやっつける抗生物質を服用するとより、効果がある??という疑問には
NO!!という答えがでたと思います。
根管内の細菌を減らすためには、抗生物質を服用するよりも、根管治療で細菌を取り除く方がよっぽど効率的で効果的なのです。
根の中の細菌を減らすため、という理由で安易に抗生物質を服用することは、耐性菌の問題からも避けた方が良いのです。

そうは言っても患者様が、腫れや痛みに苦しんでいらっしゃるとき、クリニックが長期休診になる前の腫れを伴う急患がいらっしゃったりするとついつい抗生物質を出したくなってしまうものです

根管内の細菌をやっつけることはできなくても、病気の状態によっては抗生物質の服用が必要な場合も、確かにあるのです
それは、いったいどういう状態なのでしょうか?
腫れているとき、根管内から膿みがでているとき?

次回のPART③では、抗生物質を服用するべきタイミング、判断基準についてご説明していきますね
この部分

●根管治療と抗生物質① 〜レビュー論文を読みましょう〜

2014.01.13 | 根管治療, 根管治療と抗生物質 |

皆様こんにちは。李です。
2014年がスタートして、いつもの生活に戻り、お休みぼけは特にありません
ただ、寒いですね。皆様体調気をつけてくださいね
私は年末パワーダウンした分を取り返して頑張って行きます(厄年も抜けたことですし

さて、新年はじめての根管治療のトピックは『根管治療と抗生物質』です。
このテーマは前から掘り下げてみたいと思っていたものでした。
自分でも疑問に思うことがいろいろあったから、なのです。

根管治療で抗生物質の服用が必要な場合ってどういうときでしょう?
痛いとき?痛みが激しいとき?腫れている時?膿が出ているとき?

私の疑問点は、
痛み止めだけで効く場合と、抗生物質も飲まなければいけない場合、どうやって判断すれば良いのか?
その明確な基準ってあるのかな?
また、抗生物質にも種類があります。私の個人的な使用感としてはセフェム系のフロモックスなどよりもマクロライド系のクラリスやジスロマックの抗生物質の方が効きやすいのですが、それはなんでなんだろう??

こんな疑問から、調べ始めてみるといろいろとわかったことがあります。
2、3回にわけてこのテーマでお話をすすめていきたいと思います。

根管治療のお悩みで来院される患者様の中には、『腫れや痛みを抑えるために、抗生物質を前の歯科医院でもらって飲んでいます』という方が多くいらっしゃいます。
中には、抜髄治療(根の中への細菌感染がほとんどない状態)にもかかわらず、『治療後毎回抗生物質を出されていて、それを飲んでいました。』なんて言う方もいらっしゃり、ビックリしました

このように根管治療中の痛みや腫れで、または今まで痛みの症状がなかった歯が急に痛んだ時に歯科医院で抗生物質を処方された経験がある方は多いと思います。

耐性菌の問題から、抗生物質の乱用は避けた方がよいのは皆様ご存知の通りと思います。
なのになぜ、こんなに安易に抗生物質がだされているのか?
そもそも抗生物質は根管治療にかかわる痛み、腫れ、などの症状の緩和に効果があるのでしょうか?

今回参考にした論文はASHRAF F. FOUAD著『Are antibiotics effective for endodontic pain? An evidence-based review. 』Endodontic Topics 2002, 3, 52–66です。
レビュー論文なので、『根管治療の痛みにたいして抗生物質は有効なのか?』という疑問を数々の論文から検証しています。
ここでちょっと論文の読み方の紹介です。レビュー論文って聞いたことはありますか?

論文を読むときに注意しなければいけないのは、一つの論文の結果や結論だけを鵜呑みにしてはいけないということです。
これは所属するスタディークラブPESCJhttp://www.pescj.org/で嫌という程叩き込まれました

世の中には信頼性の高い論文もあれば低い論文もあります。実験のモデルが適切でないもの、サンプルや比較対象の基準や、評価基準があいまいなものなど、実際にはたくさんあるのです。
ですので、一本の実験論文の結論だけを、絶対的な事実として語ることは本当に無知で恥ずかしいことなのです。
一つの何かを知りたいと思ったら、そのテーマに関係のある論文を沢山よまなくてはいけません。
そして、このレビュー論文というのがまさに、ひとつのテーマに関してのまとめのようなものなのです。
著者(おおむね、その分野に精通した大御所的な人が多いです)が多くの論文を読み、そのテーマに関しての概論、歴史的(時間的)変遷などをのべ、数数の論文を比較、客観的、批判的に評価し、信頼性の高い結論を抽出します。またこのテーマに関する問題点を指摘したり、どういう実験が今後のぞまれるかなどを考察します。
現時点でのそのテーマに関する正しい見解を手っ取り早く知るためにはレビュー論文を読むのが一番の近道です。(ただし、ページ数が多いことがほとんどです

ということで、今回私は抗生物質と根管治療の痛みについてのレビュー論文を選びました

さて、少し脱線してしまいましたね。
本題に戻ります。
根の病気(根尖性歯周炎)とは文字通り、炎症です。
何が原因で炎症を起こすのか?何度も何度もこのブログでお話していますが、細菌が原因です。
細菌がいなければ、根尖性歯周炎はおこりません。
細菌が根管内に感染することによって、体の反応で炎症反応がおこります。
この =”font-size: large;”>炎症反応の過程でいろいろな化学物質が放出されるのですが、それが痛みを引き起こすおおもとの原因です。

この痛みのプロセス、化学物質を直接抑える働きがあるお薬はなんだと思いますか?

答えは。。。。消炎鎮痛剤です。ロキソニン、ボルタレンなどです。抗生物質ではありません!

根尖性歯周炎による痛みは、炎症のプロセスから起こります。そして、炎症を起こす直接の原因は細菌です。
ですから、細菌を少なくすることが一番の解決策です。それが根管治療です。
そして炎症の過程での痛みのプロセスに直接働きかけるのが消炎鎮痛剤です。
なので、通常は根管治療の痛みには根管治療と消炎鎮痛剤の組み合わせが一番なのです。

ここまで読んでみて、
反論:
抗生物質は細菌を抑える薬だから細菌が原因の根尖性歯周炎には、抗生物質を飲む方がより細菌をへらしてくれるんじゃないの???って思われる方がいらっしゃると思います。
そういわれると、それはまったくその通り、理にかなったロジックで納得させられてしまいそうです。
でも、このロジックには大きな穴があるのです!!

さて、その穴、とは?
次回のパート2に続きます〜

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