根管治療に関する記事を中心に、専門的ながら大切なことを治療例をまじえて、一般の方にもわかりやすく解説しています。
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根管治療と痛み 〜歯に異常がないのに痛い、原因は?〜

2015.04.23 | 根管治療, 根管治療と痛み |

皆様こんにちは。根管治療と痛みについて3回目の記事をお届けします。

根管治療と痛みに関して、1回目の『治療前には痛みがなかったケース』2回目の『治療をしても痛みが改善しないケース』続き、

本日は『根管治療が終了し、根の病気はなおっている、または根っこに異常がないのに痛い』

です。

『通院中の歯科医院で、根管治療を受けました。治療が終わってもずっと痛いままです。先生はレントゲンに影もないし問題はなさそう、原因がわからない、とおっしゃっています。根管治療専門医の治療をうければよくなるのでしょうか?』

2回目のテーマと同じ根管治療をしても痛みがおさまらない、ということなのですが、

違いは、2回目のケースは『根管治療をしたけども、病気がなおっていない場合で痛い』であるのに対して、

今回のケースは、『根管治療で病気がなおり歯に異常がないのに痛みが改善しない』というテーマです。

 

実はこの悩みを抱えていらっしゃる患者様は多くいらっしゃいます。リーズデンタルクリニックに根管治療の初診でお越しになる患者様のうち、1,2割を占めるほどです。

原因がわからず何度も根管治療をやりなおし、どんどん歯が薄くなってしまっている方もいらっしゃいます。

痛みの原因がわからず、なかばノイローゼのようになってしまっている方もいらっしゃいます。

 

歯に異常がないのに痛い、そんなことが本当にあるのでしょうか?

とても難しい問題なので、ステップバイステップで解説していきます。

 

こういったケースでは

まずは、本当に根っこに問題がないかどうか?を確認することが大切です。

 

根っこに病気があるかどうかを、判断する上で一番の方法はレントゲン写真で黒い影があるかどうかです。

矢印部分

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(とくに下の奥歯など歯の部位によっては、骨が分厚く病気が小さいとでマスキングされてしまいレントゲンで黒い影がわかりにくいところもあります。その場合はCBCTの撮影をおこないます)

 

その他に、歯茎の腫れや、膿の出口(フィステル、サイナストラクトなどとよばれます)がある場合も、根っこの病気がある証拠になります。

そしてそれに伴い、歯の診査(打診や触診)での反応を正常な歯の反応と比較しながら確認していきます。

 

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では、治療後にフィステルや腫れもなくなり、黒い影も消えたのに痛みだけが残る場合はどういうことが考えられるでしょう?

 

下のレントゲン写真を見てください。 このように黒い影が完全になくなる場合(またはもともとない場合)は、痛みの原因が歯ではないことを考えます。

根っこに黒い影がない状態

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黒い影がないけれども、歯にひびがあるのではないか? ひびが原因で痛いのではないか?と思われている方も多いようです。

たしかにそういったことも考えられなくはありませんが、ひびがあるところは細菌の通り道になり、炎症がおこります。

なので時間の経過とともに必ず黒い影がレントゲンでうつるようになってきます。

 

 痛みの原因がわからない段階では、何かの治療をするべきではないのです。

診査、検査を念入りにおこない、歯に問題がないと判断された場合、では痛みの原因はなんなのか?どうしてそんなことがおこるのか?

以下、根管治療が成功しているのに、術後の痛みに悩まされることについて、

N. Polycarpou et al. Prevalence of persistent pain after endodontic treatment and factors affecting its occurrence in cases with complete radiographic healing. IEJ2005 からと冬休みに読んだSiqueira のEndodontic infectionsからの内容を解説していきます。

 

痛みの原因〜歯が原因でないとしたらいったい何が原因??〜

 

中枢感作(Central sensitization)という言葉は、歯科医でも聞きなれないと思います。私も痛みに関する文献を読んでいて初めて知りました。

中枢感作は、中枢神経系の知覚シグナルの異常な増幅によって感覚に変化がおこることだそうです。

中枢感作が起こりやすい要因としては、以前の痛い治療の経験や術前の痛みが、中枢や周辺の感覚変化をもたらし、しつこく長引く術後の慢性疼痛を誘発する可能性がいわれています。

なんだかいまいちよくわからないと思いますが、この中枢感作が問題のようです。

 

N. Polycarpou らの研究で、175人の成功した根管治療の術後の経過を追い、治療成功後も残るしつこい痛みが12%(21人/175人)に発生していることを報告しています。

データから、痛みの発生に関連する要因はとくに術前に歯の痛みがあり、その痛みが少なくとも3ヶ月続いている場合、慢性疼痛の既往や、過去に顎顔面領域で痛い治療をうけた既往、女性であることがリスクファクターであると報告しています。

もともとは炎症性の痛みや治療での痛みですが、一度中枢感作がおこると、炎症がおさまり、治療が終わっても中枢神経系におくる神経インパルスは増大し続けてしまい、痛みが持続してしまうそうです。そして二次的にアロディニアや痛覚過敏の原因となってしまうという辛い状況にもなりえます。

一度こういう状況になってしまったら、痛みの専門機関では薬物療法をおこなうことが多いようですが、絶対に治るという治療法は現在無いようです。

リーズデンタルクリニックでも痛みでお辛い患者様に対して、何もできることがなく、がっかりして帰られれます。

 

この論文から、中枢感作がおこらないためには、痛みを経験しないほうが良いので早めの治療を、痛くなる前に治療を行なったほうが良いといえると思いました。

歯医者さんにいったら神経をとられてしまう。だから歯医者にいかず我慢する、なんて絶対しないようにしてください。

炎症がおきた神経は可逆性でない限りは、ほっておいたら死んでしまいますし、死んだら腐って根っこの病気になってしまいます。

可逆性(一時的にお水でしみるくらい)の場合は治療で助かることも多いです。

 

*中枢感作も起こっていて、歯にも病気がある場合は、痛みの原因が歯なのか、中枢感作なのかを判断するためには、まずは歯の治療をしなければいけません。

 

以上、3回にわたって『根管治療後の痛み』3つのケースについて解説しました。ご自分の症状にあてはまるものはありましたでしょうか?

1,2のケースは根管治療専門医の治療で90%以上は解決が可能です。

 

 

 

 

 

 

根管治療後の痛み 〜②治療しても痛みが改善しない〜

2015.03.23 | 根管治療, 根管治療と痛み |

こんにちは。李です。

根管治療後の痛みについて、前回からシリーズで書いております。

なぜ根管治療をした後に歯が痛いのか?

根管治療後の痛みにはいろいろな原因が考えられ、答えは一つだけではありません。このシリーズではいくつか例をあげ、根管治療後の痛みの考えられる原因を解説していっています。

(これら複数の原因をクリアしてもなお、痛みが続く場合はもはや治療した歯が痛みの原因ではないことも考えられます。)

 前回のブログでは治療前は痛みがなかったのに、治療後から痛みがでてきてしまったケースについてお話ししました。

詳しくは前回の根管治療後の痛みへ

 

今回は別のケースについて解説していきます。

 

ケース2:治療前から痛みがあり、そして治療をしても痛みが改善しないケース 

『1ヶ月前から奥歯に腫れや痛みがあり、かかりつけの歯科医院で根の治療を数回おこないましたが痛みも腫れもひきません。担当の先生から、難しいケースなので根管治療専門の歯科医院の受診をすすめられ受診しました。専門医の治療後、腫れはひき、以前よりは症状が軽減しましたが、まだ硬いものを噛むと痛く、日常生活に支障があります。この痛み、完全には治らないのかと思うと不安です』

 

適切な無菌的治療をうけても痛みが改善されない……

専門医でも治療がうまくいかないことがあるの?

何が原因なのか?

解決方法はあるのか?

 

はい、根の治療専門医が治療をしてもうまくいかないことはあります。残念ながら

でも解決法はあります!!以下にご説明していきます。

 

まずは根管治療の成功率についてご説明します。

そもそも、治療の成功とは、なにをもって成功というのか?

判定の仕方はいくつかありますが、一般的には症状の改善とレントゲンでの黒い影が小さくなる、または無くなる、ということが成功の判定基準となります。

 

欧米の論文では、根管治療の成功率を研究した論文が多くあります。

ざっくりした数字でご説明しますが、根管治療専門医が治療した場合でも以下のように100%の成功率ではないのです。

 

根管治療の成功率

①死にかけている歯髄炎の神経をとる抜髄治療の成功率(initial treatment/根っこの病気無し)90%以上

②神経が死んで腐って細菌が感染している歯の根管治療の成功率(initial treatment/根っこの病気有り)80%

③再治療(retreatment/根っこの病気有り)70~80%

④再治療(retreatment/根っこの病気大またはその他の問題もあり)50%

 

注:日本では無菌的な環境下での治療がほとんどなされていないため、根の治療全体の成功率が50%以下ともいわれています

詳しくはECJコラムへ→ 成功率から見える根管治療の実情

 

このように、治療が成功しない場合も一定の割合で必ずあることを患者様にはわかっていただきたいです。

 

また、根の治療が必要な歯でも、その歯の状態によって成功率は変わってきます。

どうしてでしょう?

根本的なところから一緒に考えていきましょう。 

 

痛みの原因は? →  炎症です(根尖性歯周炎という炎症の病気)

では

炎症の原因は? →  細菌です

つまり 細菌がいなければ炎症はおこりません

抜髄治療は根のなかに細菌がほぼいないのです。

もともと根っこの病気がない場合(神経をとる抜髄治療)が一番が成功率が高い(90% 以上)

これは、細菌が根っこの中に蔓延する前に治療がおこなわれるので、成功率が高いのです。

根っこの病気があるということは、もうすでに根の中に細菌が蔓延しているということです。

一度細菌が蔓延してしまうと治りにくくなるのです。

 

根管治療で細菌を殺菌しているのになぜ?

根っこの穴(根管)はとても複雑な形をしています。単純な丸い穴だけでなく、いびつな形をした穴(おたまじゃくしの長いしっぽみたな形の根管や、ひょうたんみたいな形、など本当にいろんな形があります)また、横道のような細い枝がたくさんあります。

そこには殺菌が届かない部分があり、細菌が住み着き病原性を発揮しているとなおらないのです。

下の写真は奥歯の根の先端をカットして拡大した写真です。

ピンクのお薬が入っているところ部)がレントゲンにうつるメインの根管です。部分に根っこと根っこの間をつなぐ横道(専門用語でイスムスといいます)があります。

 この横道はいくら顕微鏡を使用していても見ることはでません、もちろん触ることもできません。ということは殺菌もできないのです見えて直接触れるのはメインの根の穴だけなのです。

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このことが、治療が成功しない場合があることの大きな理由となります。 

 その他の理由として、根の中に住みついた細菌の種類も関係します。

 根管治療専門医のもとで無菌的な治療を受けた場合、細菌や細菌の栄養源は確実に減り、増えにくい環境になります。そうすると体の免疫力が力を発揮できるようになり、病気が治癒方向に向かいます。けれども少ない細菌でも、病原性が高く、殺菌しても生き延びる強い細菌や、栄養がなくてもしぶとく生き延びる細菌が残っている場合、根っこの病気(炎症)がなおらず、根管治療後の痛みが続く場合があります。

 

じゃあ、なおらなかった場合どうすればいいの??

 

この場合、顕微鏡を使用した歯根端切除術という手術をおこなうことで、問題を解決できることがほとんどです。

その成功率は90%以上と報告されています。

(注:この数字は顕微鏡を使用し、専用の器具や術式でおこなった場合の歯根端切除術の成功率です。それ以外の手術法ですと成功率は59%程度と報告されています)

Setzer FC, et al.  Outcome of Endodontic Surgery: A Meta-analysis of the Literature—Part 1: Comparison of Traditional Root-end Surgery and Endodontic Microsurgery JEndod  2010より

 

患者様にこのご説明をすると、『じゃあ根管治療をしないで、最初からこの手術だけやればいいじゃん!!』と言われる方が結構いらっしゃいます。

もちろんそういうケースもありますが、多くは問題があります。

このお話は根管治療後の痛みとは離れ、また別のテーマとなるので別の機会にお話ししていきたいと思います。

 

次回は痛みシリーズパート3です。根管治療をしても痛みがおさまらない別のケースについてお話ししていこうと思います

 

 

 

根管治療後の痛み 〜①治療前は痛みがなかったケース〜

2015.03.08 | 根管治療, 根管治療と痛み |

根管治療後の痛み についてシリーズで書いていこうと思います。

 根管治療 後も痛みが続き、お悩みの方は多くいらっしゃることと思います。

それどころか今までは痛みがなかったのに治療をしてから歯の痛みに悩むようになってしまった、というケースもあります。

なぜ根管治療をした後に歯に痛みが残るのか?

 

痛みにはいろいろな原因が考えられ、答えは一つだけではありません。

3回にわたって痛みがおこる例をあげ、痛みの原因を解説していきます。

これら複数の原因をクリアしてもなお、痛みが続く場合はもはや治療した歯が痛みの原因ではないことも考えられます。

 

ケース1: 根管治療前には痛みがなかったのに、治療してから痛みがでるようになったケース 

『銀歯がはずれ歯医者さんに行ったら、深い虫歯になっていて神経を取る根管治療を受けました。治療前は歯に痛みはなかったのに、治療後から痛みに悩むようになりました。ずっと痛みが取れず、この先痛みがおさまるのか不安です。』

神経をとる抜髄治療や再治療で、もともと痛みがないのに治療後から痛みだし、痛みが長引くケースでは根の中に細菌が入りこんでしまった可能性が考えられます。

ラバーダム防湿をおこなわない根管治療、無菌的環境で治療されていない場合は、治療中にお口の中の唾液や歯の周りの歯垢(プラーク)から根っこの中に細菌が入ってしまうのです。そうすると根尖性歯周炎という炎症の病気がおこり、この炎症が原因で痛みの症状が長引く可能性があります。(*治療後は、歯に刺激が加わるために一過性に術後の痛みが起こることがあります。これは細菌性の炎症による痛みとはちがって、通常3日程度で落ち着く痛みです。それより長引く痛みの場合は細菌感染を疑います) 

このようなケースでは無菌的な環境で、以下のことに気をつけて治療をしてあげると1回目の治療後から痛みがなくなるケースも多いです。

大切なことから順番に説明します。 

①治療中に、根の中に細菌が入らないように注意する。

→ラバーダム防湿をおこない、無菌的な環境での根管治療、つまり根の中で使用する器具はすべて滅菌済みのものを使う(消毒や殺菌だけでは不十分です)

根管治療 痛み 5 

 

②治療と治療の間にも根の中に細菌が入らないようにする

→唾液がにじまないよう、硬い素材で分厚く蓋をする(すぐ取れる蓋はダメです!!)

 根管治療 痛み 3

③虫歯を見落とさない

→歯に虫歯が残っていると、その虫歯から根のなかに細菌が入ります。虫歯が残った状態で根管治療がなされている歯のなんと多いことか!!

 

根管治療 痛み 2

 

④歯の根っこの中をしっかり殺菌する         

→機械を使った根の中のおそうじ、殺菌効果の高いの薬液を根の循環させる、治療と治療の間の期間も殺菌の薬が効果を発揮でるように根の中に純度の高い殺菌のお薬をいれる。

⑤細菌が繁殖をつづけるための栄養の供給源を見逃さない

→細菌の栄養 (神経の死骸など)になるものがどこかにある場合は、細菌が増える要因となります。つまり、炎症が進行し、痛みがでる場合があります。

根管治療 痛み 原因

 

①〜③がかなり重要です これができていないと、④で殺菌を一生懸命おこなっても常に細菌が入ってしまうからです。

細菌がいなければ炎症はおこりません。残った神経が悪いのではなく、神経を栄養として繁殖する細菌の存在が悪いのです。炎症が持続し、根管治療後の痛みが発症、または続いてしまうのです。

根管治療とは本来、細菌が根っこのなかに入らないように細心の注意を払って治療を行わなければいけません。

 

次回は別の痛みのケースを例に、正しい根管治療がなされても痛みがおさまらない場合についてご説明していきます。

痛みにはいろいろな要因があり、ひとつひとつ問題をクリアしながら痛みの原因をさぐっていかなければいけない場合もあります。

今回の記事が根管治療後の痛みで原因がわからず不安になっていらっしゃる患者様に少しでも役立てば幸いです。

 

 

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