根管治療に関する記事を中心に、専門的ながら大切なことを治療例をまじえて、一般の方にもわかりやすく解説しています。
ありきたりな内容ではなく、欧米の論文を精読した内容をベースに信頼性のある有用な情報を発信するよう努めています。疑問に思ったことは徹底的にリサーチします。学会参加報告記や、お知らせ、プライベートのくだらないお話もごくたまに、綴っております。

深い虫歯の治療〜神経を保存する生活歯髄療法〜

2017.11.23 | 根管治療, 根管治療の前に〜歯の神経を残す治療〜 |

 

昨日から私が勤務医の時にお世話になった元上司の先生のカンボジアの歯科医院と診療を視察にきています。日本やアメリカ、カナダなど、先進国の歯科医療はよく理解していますが、開発途上国の歯科医療は初めてです。滞在中は現地で歯科医としてのボランティア活動も行う予定です。また帰国後にブログでご報告したいと思います。

 

さて、前置きが長くなりましたが神経に近い、深い大きな虫歯の治療法、生活歯髄療法について今日は書いていこうと思います。以前にも生活歯髄療法についてはブログで記事を書いていますが、9月に札幌のAE(Academy of Endodontics)での認定医更新試験のための発表で生活歯髄療法をテーマに選び、新たに80近くの関連論文を読み、新しい知識をアップデートすることができましたので、このブログで数回に分けてこのテーマを取り上げていこうと思います。

*記事の最後に参考文献を載せておきますので、ご興味のある方はどうぞ。

生活歯髄療法にも種類がありますが、今日ご紹介する生活歯髄療法は神経を露出させない方法で、日本の歯科の教科書だと間接覆髄法などと言われます。

 

間接覆髄法とは

治療の流れは基本的には深い虫歯を削りとった表面にお薬を置いてその上から詰める、というものです。神経に近い深い部分に置く薬剤は水酸化カルシウム製剤を使用することが古くから一般的でゴールドスタンダードといえるでしょう。その上の詰め物はレジンやアマルガム、グラスアイオノマーセメント、酸化亜鉛ユージノールセメントなど様々なものが使われます。

これだけ聞くと非常にシンプルな虫歯治療で簡単に聞こえますが、これがなかなか奥が深いのです。それはなぜかというと、事前に診断が難しい神経の生命力が治療の成功に大きく関わるからです。

 

ドックベストセメント、3mixの治療って?

患者様から、ドックベストセメント、とか3mix とかそういった治療法について聞かれることが多くあります。

ドックベストセメントも3mixも、治療の流れは基本的には深い虫歯を削った表面にお薬を置いてその上から詰める、というものなので間接覆髄法と言えます。

深い虫歯、神経に近い虫歯の治療法でそういうものを使うと神経が助かると誤解している患者様がほとんどで、そして歯科医の先生も誤解している方が多いようにお思います。

深い神経の虫歯の治療が成功するかどうかは、もともとの神経の健康度合いと、虫歯を削った穴をいかにきっちりと封鎖できるかどうかに関わっています。ドックベストセメント、3mix,などを使ったから助かるわけではありません。

神経が生き延びれるかどうかは、その神経がどれだけ健康かによります

神経が健康であればあるほど、適切な治療をすれば、ドックベストセメントや3mixなど行わなくても助かります。最近では、従来から使われている水酸化カルシウム製剤すらも必要ないかもしれない、というリサーチも出てきています。(参考文献10)

ここで重要なのは神経の健康度合い(生命力とでもわかりやすく言いましょう)と、適切な封鎖です。

神経の生命力/炎症の度合い

虫歯が深ければ深いほど、虫歯菌の影響で神経に炎症が起こります。神経が不健康になり、生命力が弱まっていくイメージです。この神経の不健康度合い(歯髄炎の度合い)が、治療の成功に関わる第一のキーポイントです。

歯髄炎が進むと神経の生命力が弱まり、治療で虫歯を取り除いても、生命力が回復できない場合があります。

歯髄炎にも様々な状態、初期〜重度のステージががあります、

初期から重度に進むペースも虫歯の環境やお口の状況などで個人差があるといえるでしょう。

健康な神経、または軽い歯髄炎程度は神経を残す治療が成功しやすいです。

神経の生命力が弱ってしまった原因は虫歯(細菌の刺激です)。

細菌刺激で神経に炎症が起こります、そして神経がまだ元気なうちは炎症の原因を取り除いてあげれば(虫歯を取り除くこと)、自己治癒します。

 

中程度、重度の歯髄炎になってる場合は、よりアグレッシブな生活歯髄療法または神経を取る治療が必要となることが多いです。

重度の歯髄炎になると、そもそも神経の生命力が弱くなっているので、健康な状態に回復できず、ドックベストセメントも3mixももちろん効果はありません。

 

↓神経の炎症の度合いをイラストで表すと、こういうイメージです

(濃く赤い部分が炎症の範囲です)

 

使う薬、セメントよりも確実な封鎖が重要

確実な封鎖というのは虫歯の穴を外界からシャットアウトするようにきっちり詰めることです。原因を取り除いたとしても、虫歯を削った穴の封鎖がしっかりできていなと、詰め物の隙間から、刺激がいきますし、細菌の栄養となる唾液などが入り込みさらに細菌が増え、活動しやすい環境になり、神経の炎症が持続します。

 

あえて神経に近い部分の虫歯を取らない治療法

虫歯は全て取り切らないと、神経の炎症は治らない、治療後も中でどんどん進んでしまう。そう考えている歯科医はとても多いと思います。大学でもそう教わりますし、わたしもこれまでそう思っていました。

今回、このテーマのために論文をいろいろと読み、欧米でのカリオロジーという予防歯科の分野や小児歯科の分野では昔の考えと大きく変わってきていて、神経に近い虫歯で、神経の生命力が健康な場合は一番深いところの虫歯を取り切ら無い、ということが主流になってきていることに驚きました。

虫歯を取り切らないことのメリット

神経に近い部分の虫歯、そこをとると神経に穴が開いてしまうような、そこを刺激することでより神経にダメージを与えてしまうような、深い部分、ここはあえて虫歯を取らず(刺激せず、神経に穴が空くのを防ぐためです)残した状態で、穴をしっかり封鎖すると、中の細菌数が減り細菌の活動が止まり、虫歯の進行が止まると数多くの研究で証明されています。(参考文献4,5,6,8)

神経が健康だと、残った活動停止した虫歯菌の緩やかな刺激で第3象牙質という、新しい歯が神経の内側からできます。

これが元気な神経の防御反応なのです。

以前は水酸化カルシウムの効能でこの第三象牙質ができると考えられていましたが、現在は神経または象牙質の細胞(象牙芽細胞)が、進行停止した虫歯のゆるやかな細菌に刺激されて、こういった防御能を発揮すると考えられています。

***ただしこれは弱った生命力の弱い神経では起こりません。神経が健康だからこそ起こる防御反応です。***

 

Selective carious tissue removal

2015年に12の国(北米、南米、ヨーロッパ、オーストラリア、アジア)から21人のカリオロジーの専門家が集まりInternational Caries Consensus Collaboration(ICCC)が開催され、神経に近い虫歯はあえて虫歯を取り切らないということでコンセンサスが得られています。

また、この方法はいろいろな名前で呼ばれていましたが、Selective carious tissue removal という呼び方に統一されました。

訳すと『選択的な虫歯除去』 という感じです。

逆に完全に取り切る方法はNonselective carious tissue removal 『非選択的な虫歯除去』で, 浅い虫歯、中程度の虫歯に適応されます。

*記事の最後に参考文献を載せておきますので、ご興味のある方はどうぞ。

Selective carious tissue removal はもっと歯科医の間で認識されて来れば大人の虫歯の治療でも需要が増えてくると思います。神経が温存できれば難しい根管治療も必要ないですから。

 

↓AE発表時に作ったSelective carious tissue removal のスライドを以下に貼り付けます。

 

参考文献

  1. Frencken J. E., Innes N. P. T,  Schwendicke F. Managing Carious Lesions: Why Do We Need Consensus on Terminology and Clinical Recommendations on Carious Tissue Removal? Adv Dent Res. 2016;28(2):46-8.
  2.  Innes NPT, Frencken JE, Bjørndal L, Maltz MManton DJRicketts DVan Landuyt KBanerjee ACampus GDoméjean SFontana MLeal SLo EMachiulskiene VSchulte ASplieth CZandona ASchwendicke F. Managing carious lesions: consensus recommendations on terminology. Adv Dent Res. 2016;28(2):49-57.
  3. Schwendicke F, Frencken JF, Bjørndal L, Maltz MManton DJRicketts DVan Landuyt KBanerjee ACampus GDoméjean SFontana MLeal SLo EMachiulskiene VSchulte ASplieth CZandona AFInnes NP. Managing carious lesions: consensus recommendations on carious tissue removal. Adv Dent Res. 2016;28(2):58-67.
  4. KingJ JB, Crawford JJLindahl RL. Indirect pulp capping:A bacteriologic study of deep carious dentine in human teeth. Oral Surg Oral Med Oral Pathol. 1965;20(5):663-9
  5. Handelman, S. L., Washburn, F., & Wopperer, P.  Two-year report of sealant effect on bacteria in dental caries. J Am Dent Assoc., 1976;93(5):967–970.
  6. Bjørndal L, Larsen T, Thylstrup A. A clinical and microbiological study of deep carious lesions during stepwise excavation using long treatment intervals. Caries Res. 1997;31(6):411-417.
  7. Ricketts DN, Kidd EA, Innes N, Clarkson J. Complete or ultraconservative removal of decayed tissue in unfilled teeth. Cochrane Database Syst Rev. 2006;19(3):CD003808.
  8. Mertz-Fairhurst EJ, Curtis JW Jr, Ergle JW, Rueggeberg FA, Adair SM. Ultraconservative and cariostatic sealed restorations: results at year 10. J Am Dent Assoc. 1998;129(1):55-66.
  9. Schwendicke F, Dörfer CE, Paris S.Incomplete caries removal: a systematic review and meta-analysis. J Dent Res. 2013;92(4):306–314.
  10. MA Pereira et al. No additional benefit of using a calcium hydroxide liner during stepwise caries removal. J Am Dent Assoc. 2017;148(6):369–376.

PESCJ 東北支部の発足記念講演

2017.10.22 | Penn Endo, 学会報告 |

こんにちは。李です。

今日の記事はこのブログを読んでくださっている歯科医の先生方に向けて書いています。

週末に私が所属する根管治療、歯内療法の専門医のためのスタディーグループ PESCJ (Penn Endo Study Club in Japan) の東北支部の発足記念講演を聴きに青森に行ってきました。

 

 

PESCJは今年から日本全国に支部会を設立し、各地域で一般の歯科医の先生に向けたセミナーを行っています。

関西支部、九州支部、関東支部、東北支部があります。

各地域で開業されているPESCJのメンバーの先生たちが講演を行います。

 

今回私は支部の講演をはじめて聞きましたが、

ペンエンドで学ぶ内容の基本のエッセンスを、1日でぎゅっと凝縮して学べる、とても内容の濃いものだと思いました。

 

ベースとなるコンセプト:診査、診断、無菌的処置の重要性、

そして実際のテクニックにまつわるテーマ: 根管形成、洗浄、充填

そして最後には外科的歯内療法まで、と全て網羅されています。

そして何よりも、

各演者の先生方が一般歯科の先生に向けなるべくわかりやすいように、内容、スライドを工夫しています。

コンセプトを裏付ける、超重要論文をわかりやすく図や写真で解説し、

ラバーダムの実際のかけ方、ストレートラインアクセスの行い方、など写真や動画を使って解説していました。

 

ペンエンドに興味があるけど敷居が高い、また根管治療が苦手、わからない、どう勉強したらわからない、などの先生方には是非オススメです。

今後も日本全国で行っていく予定です。

今後のスケジュール、申し込みは以下の各支部会HPでご確認ください。

 

PESCJ東北

http://pescj-tohoku.org/data/%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%81%AE%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B/

PESCJ関東

http://pescj-kantou.org/index/

PESCJ関西

http://pescj-kansai.org/seminar/

PESCJ九州

http://pescj-kyushu.org/%E3%81%8A%E5%95%8F%E3%81%84%E5%90%88%E3%82%8F%E3%81%9B/

 

 私も時々参加する予定です。

ご興味ある方は是非!!

 

↓青森といえばねぶた祭り(新青森駅内)

↓会場だったアスパムの展望台からの景色、小さく北海道が見えるそうです(なんとなく見えるような見えないような、、、)

根管治療をしないで歯根端切除術のみ行うケース〜長いポストで除去が難しい場合に〜

2017.10.16 | 根管治療, 歯根端切除術 |

 

皆様こんにちは。すっかり寒くなりましたね。

今日は生活歯髄療法のお話に入る前に、歯根端切除術についてもう少し書きたいと思います。

 

根管治療を行わずに歯根端切除術だけを行う場合

 

歯根端切除術は、通常の根管治療で病気が治らなかった場合に行う手術法です。

あくまで病気の原因は根管の内部の細菌感染ですから、根管治療を行わずに手術のみ行うことは病気の原因の感染源を残すことになりますし、ひび割れの見落としなどもありえます。

 

ですので、通常は行いません。

 

では、どういう時に行うのか?当院では二つのパターンがあります。

 

以下にご説明していきます。

①コア、ポストが長く太く、除去するのが難しい

または物理的に不可能、外すことにリスクがある場合

前歯などでよくあるケースです。過去の治療でメタルコアのポスト部が極端に長く、除去が難しい場合、

削る道具の長さにも限界があるため、物理的に届かずはずすことが不可能な場合、

歯が薄く、今後長持ちしなさそうな歯で腫れや痛みなど症状があり、抜歯はまだしたくなくて延命的な処置ご希望の場合などに

根管治療は行わずに歯根端切除術のみ行う場合があります。

 

症例でご説明していきます

 

下のレントゲンの患者様は長く太いメタルポストが装着されていて、歯肉に腫れ痛みがありました。

前歯なので、抜歯をすると隣の健康な天然の歯を削りブリッジにするか、インプラント治療となります。

まだお若い患者様でしたので、使えるうちは自分の歯を使いたいと強くご希望されていました。

ポストが長すぎて除去が難しいこと、うまく外せたとしても歯が薄すぎて長持ちしない場合は、トータルの治療費用対効果が悪すぎることなどをご説明し、

歯根端手術のみを行うプランとなりました。

 

初診時のレントゲン写真

 

歯根端切除術後

術後1年経過観察時

腫れ、痛みの症状も改善、病気は治癒して問題なく歯を使えています。

こういったケースでは、根の中に感染源が残るというデメリットよりも、クラウンやコアを外すことのデメリット、リスクの方が大きいと考えます。

そして、歯肉に腫れや痛みなどの明らかな不快症状があってなんとかしたい、けれども抜歯はまだしたくない、という場合に適しています。

 

②患者様の強いご希望で、被せ物を壊したくない場合

当院では、患者様の強いご希望があっても、その歯がしっかりした歯で長持ちしそうであれば被せ物を外して根管治療をオススメすることが多いです。

なぜなら再発した時のリスクを考慮するからです。

それでも、セラミック治療を行ったばかりでどうしても外したくない という強いご希望がある場合には、後の根の病気の再発のリスクをご納得いただいた上で歯根端切除術だけを行います。

 

こういったケースでは、患者様にとっては根の中に感染源が残り病気が再発することのリスク回避よりも、クラウンを壊さないことの方がプライオリティが高いと考えます。

 

認定医更新試験 in 札幌AE (Academy of Endodontics)2017

2017.09.29 | 根管治療, Penn Endo, グルメ&ワイン, 学会報告 |

 

こんにちは。李です。

先週末は札幌で行われたAE(Academy of Endodontics)で、認定医更新試験のために発表を行いました。

前回認定医試験を受けたのは5年前ですので、久しぶりの発表で緊張しました。

この更新試験はトピックプレゼンテーションとケースプレゼンテーションの二つを行わなければならず、判定も細かく厳しく、準備が本当に大変です。

今回私は今自分が興味のあるトピックを選びました。

『神経を残す(保存する)治療法、生活歯髄療法』英語でいうと『Vital Pulp Therapy』です。

 

↓ 発表のタイトルスライド。自作のイラストです。

 

(余談ですが、私はスライド内で説明に使うイラストを自分で描くのが好きです。今回Apple pencil を使ってみましたが、すごく描きやすく鉛筆、マーカー、ペンのラインが本当にリアルで

描いていてとても面白かったです!!)

 

 

この領域に関して、大学で教わった古典的な考え方と違う、新しい考え方を裏付ける研究、報告などが多数出てきています。

今回この発表のためにかなり多くの資料を集め、論文抄読を行いました。最新の知識のアップデートができ、とても勉強になりました。

 

どういう内容かというと、

例えば 大人の歯の深い虫歯で

古典的な考え方

虫歯が深い場合、神経が露出したとしても、虫歯は全部取らなければいけない、

最近の考え方

神経が露出しないように虫歯は全て取らずに、しっかり封鎖をする。そうすることで中の細菌が減って、虫歯の進行が止まり、神経を保存することができる。

 

*これは神経の炎症が浅い場合にできる治療法です

 

例えば 大人の歯の深い虫歯で

神経の炎症が深い場合、神経は全部取る治療を行う方が成功率が高く、確実な治療法です。

最近の報告では部分的に炎症の多い神経だけを取る生活歯髄療法を行い、2、3年予後で高い成功率が報告されています。

 

などです。

*完全に神経が死んでる歯には適応できません

 

6,7月で資料集めと論文抄読、8月に内容の構成を考えプレゼン作り、夏休みもほとんどこの作業に時間を使いました。

そして9月は仕上げと見直し、配布資料作成、練習です。

そんな訳でブログの更新もなかなかできませんでしたが、発表内容は自分で満足のいくものになり達成感を感じています。

しばらくこのブログでも生活歯髄療法のテーマを取り扱っていこうと思います。

 

↓発表が終わったところ

 

発表後は懇親会で、いくらを大量にのせるお店で北海道の魚介を堪能しました!!

 

 

翌朝は北大のキャンパス内を清々しい気持ちでジョギングしました。

 

夏季休診のお知らせ8/24(木)〜8/30(水)

2017.08.23 | お知らせ |

 

 

LEE’S DENTAL CLINICは8/24(木)〜8/30(水)まで夏季休診となります。

 

メールやお問い合わせのご返信はお休み明けとなります。

ご迷惑おかけ致しますがよろしくお願い致します。

 

 

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